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「実際、休みが合わなくなったら部屋探しも難しくなるし、時間がある時にできたら助かるなって気持ちはあるよ。ただ……」
私は父の顔を思い浮かべた。さすがに四十の娘の同棲を反対するとも思えないけど、その先に結婚があると考えると、挨拶には行っておかないといけない気がする。それに、亮弥くんのご両親にだって……。
「それぞれの家に結婚のことを話してからの方が良い気がして……」
「やっぱりそうだよね……」
「特に亮弥くんのご両親には、ついこの間“先は決まってない”って言ったばかりだから、またお母さん悩ませちゃうかもしれなくて、ちょっと心配」
「うーん……。でも、母親は優子さんのこと気に入ってたぽかったから、なんとかなるんじゃないかな? 俺は、優子さんのお父さんの方が怖いけど……」
「あはは、私も怖い」
「ダメじゃん」
私は飲みかけのカップをいったんテーブルに置いた。膝を少し倒して亮弥くんのほうを向く。いつ見ても美しい横顔は、それに気づいてこちらに視線を流し、口元に笑みを乗せる。私の瞳がカメラになって、この顔をそのまま写真に収められたらいいのにと、私はいつも思う。
「そういえばね、妹の彼氏がギター弾く人で、最近たまにライブやってるんだって」
「え、すごいじゃん」
「うん、それでね、一度亮弥くん連れて観においでよって言われてて……四人でご飯も食べたいって言ってたけど、どうする?」
「え、ホント? 行く」
予想外の反応。
「ライブとか、初対面でごはんとか、大丈夫?」
「大丈夫。その彼氏さんって長年同棲してる人でしょ? お父さん対策聞きたいから、会ってくれるなら会いたい」
「そっか、たしかにあの子たちに先に相談するのはアリかも。じゃあ、それ先にアポ取ろうか。ライブはまた別途でも、いったんごはんだけでも良いし」
「うん、そうする」
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