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「ほんとにあの時のことだけキレイに覚えてないんだね」
「あの時って?」
「酔っ払って仲見世歩いた時」
「あ~、その時にそんなことまで言ってたの?」
「いろいろ優子さんの願望聞けて、俺には収穫だったけど」
全く覚えてなくて、なんだかすごく恥ずかしい。お酒には気をつけよう。
「とにかくね、俺はそのアルバムだけは絶対に作りたいの。あの時にそうしようって決めたから。こんなに早くチャンスが来るとは思わなかったけど……」
そんなこと思ってくれてたなんて、素直に嬉しい。今の容姿でどれだけのものが撮れるのか、心配ではあるけど。
「それならたしかに、一日でも早い方がいいかもね」
「え、じゃあ、撮ってくれる?」
「うん。ありがとう」
「ッしゃ‼ じゃあさ、じゃあさ、俺いろいろフォトプラン調べてたんだけど……」
亮弥くんはすぐに自分のスマホを操作して、私に画面を見せながら、いろんなフォトスタジオやアルバム制作のプランを、わかりやすく説明してくれた。
それを聞きながら、よく調べてくれてるなぁと感動するとともに、本当に本当にこの人のことが大好きだと、深く実感する。
この幸せを、この先ながくながく守っていけるように、亮弥くんの笑顔を守っていけるように、私のすべてをかけて尽くしていこう。
そうすることを不安に思わないのは、亮弥くんがいつも、私の愛情を上回るほどのものを返してくれるから。
私がこんなにバランスよく一緒にいられる人は、過去も未来もこの世界に一人だけだろう。その人と出会えた私は、とても幸運な人間だ。
これまでとは何もかもが違う毎日が始まろうとしている。
この年で全てを一新させることに、こんなにわくわくしている。
四十歳。まだまだ残された時間は長い。
自分の気持ちに最適化された人生という、最高のプレゼントを享受して、私は進む。
心から愛おしい大切な人と、この先は二人で――。
<完>
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