第十四話

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第十四話

 マウル村は、人口三百人にも満たない小さな村だ。  外界の出入りは、入り口にある石門だけ。周囲は高い山々に囲まれたのどかな場所だ。 「それで、お前はいつまでついてくるんだよ」  村長の家に通された三人。  かやぶき屋根に土壁でできた家。室内には囲炉裏がある。まるで本の中にある昔話のような場所で、トトたちはお茶を飲む。 「言っとくけど、人形は渡さねぇ。もしも、お前が変な動きをしたら……」 「したら?」  好戦的な態度で鼻を鳴らすベレクト。トトにお仕置きされてからは、彼女に対して従順になったが、リリのことは随分と舐めきっていた。  元々リリは、トトのように暴力で物事を解決するのは、苦手だった。争いや痛みは何も生まないと、教えられてきたからだ。  しかし同じ環境で育った姉は、なぜかその教えを守らない。  何度言っても理解できないのだから、リリは諦めた。  だからこそ自分は温和に穏やかに、物事を解決しようと努めている。  リリはベレクトの言葉に、こう言うしかないのだ。 「お、俺の姉貴が黙っていない、ぞ……」  リリの答えにベレクトは、吹き出した。顔を赤くしながら、リリはいつも思う。自分にもっとトトのような暴力的な部分があったらいいのにと……そう願わずにはいられなかった。 「で、仕事の話じゃが」  三人の向かいに座るゲンショウが、おもむろに口を開いた。 「依頼した商会は果実の獅子、ベリーズライオンで間違いなかったかね?」 「はい。人形刻印はこちらです」  トトとリリは、それぞれ身に着けている人形を取り出す。リンゴを加える獅子が描かれたそれを見て、村長は頷いた。  人形師は、主に商会から仕事を受注している。  商会とは人形師たちが所属する職業組合のことを指す。仕事の斡旋やクライアントとの交渉、職人が本来行わなければならない雑務などを、商会は一手に請け負っている。  オーナーと呼ばれる管理長が、商会の代表としてその運営に携わっている。  元々商会は小さな職人の集まりだったが、やがて巨大化し、各地に置かれるようになった。商会なしでは人形師として生きていくのが難しいと呼ばれるほど、影響力は大きい。   トトとリリが所属しているのは商会、果実の獅子。赤い果実をかじる獅子がモチーフの東にある商会だ。  商会に所属している者は皆人形刻印と呼ばれる、各商会専任の職人が彫った人形を、身分証明の代わりとして持ち歩かなければならないのが決まりとなっている。  刻印の彫られた人形は人それぞれで、トトはネコ、リリはカエルの人形を、腰から下げている。  ゲンショウは、首をかしげる。 「商会から派遣するのは、二人の人形師と聞いておったのだが、一人多くないか?」  ゲンショウの質問に、リリは答える。 「コイツ新人で、急遽俺たちの仕事に研修のためについてくることになったんですよ。刻印もまだ間に合ってなくて……」  リリは隣に座るベレクトの髪を掴むと、強引に頭を下げさせる。 「何すんだよ!」  声を荒げるベレクトの耳に、リリは囁いた。 「もし商会にお前の存在が知れたら、面倒くさいことになるんだよ! 今だけは顔隠しとけ、お願いだから!」  早口でまくし立て、誤魔化そうとするリリ。  そんなリリとは反対に、トトはのんきに茶菓子を頬張っていた。面倒ごとは全て弟がやってくれる。それが彼女の信条だ。 ゲンショウは終始ベレクトを訝しんでいたが、リリの説得の甲斐あってか、納得してくれた。
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