あなたはエンゼルフィッシュ

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あなたはエンゼルフィッシュ

 あなたは天使だ、と打とうとしたのに、あなたはエンゼルフィッシュだ、と間違えて打って送ってしまった次の日。  朝起きて、清川は思った。ああ、これで自分はおしまいだ。  今日、これから学校に行くと、きっと教室の中は清川の話題で持ち切りになっているだろう。あなたはエンゼルフィッシュだ、という意味不明のメールを送りつけた清川のことを、きっと皆がからかう。もしかしたら、メールの内容が教室に張り出されているかもしれない。  いやな想像ばかりが頭を駆け巡るが、その一方、清川は自分でも不思議なくらいすがすがしい気持ちになっていた。きっと、長い間思い悩んでいた気持ちを、言葉にして伝えたからだろう。こんなメールを送ってしまった以上、振られるのは間違いないが、それも仕方ないと思うことができた。  仕方ないことなのだ。それならそれで、あきらめがつく。  清川はすっきりとした気持ちでベッドから起き上がった。カーテンを開けると、まばゆい朝の光が入ってくる。空は快晴だった。  すると、カーテンが開くのを待っていたかのように、携帯電話が振動し始めた。どうやらメールが届いたらしい。清川は何の気もなく画面を開いた。メールが来ている。昨夜、あのメールを送った相手から。 『清川君へ。わたしってエンゼルフィッシュだったんだね!? 知らなかった~! びっくりしちゃったよ~☆』  メールの末尾には、満面の笑みを浮かべた絵文字が添えられている。悪い意味であるようには見えなかった。文字通り、本当にただびっくりしただけなのかもしれない。  いつも明るい調子で話す彼女の顔を思い浮かべると、清川の顔にも自然と笑みが浮かんだ。  と、今度はピピっと短い音が鳴った。どうやらもう一通メールが来たらしい。 『ところで清川君って、好きな人いるの?? いないなら、わたしと付き合わない!!!??』  あれ、と清川は声を出しそうになった。  まさかこんなことになるとは思わなかった。彼女のほうから、告白のメールが送られてなんて……。  清川は泣き笑いの顔で、返事のメールを打ち始めた。今度こそ間違えないようにと意気込むあまり、指が少しひきつっている。それでも少しでも早く、彼女に返事を伝えたかった。 『ぼくの好きな人はあなたです。本当は昨日、あなたは天使だ、って送るつもりだったんです。変なメールを送ってしまってすみません。どうか、ぼくと付き合ってください。よろしくお願いします』  少しマジメすぎるかな、と思いながらも、清川はそのまま送信ボタンを押した。すかさず、返事のメールが返ってくる。 『気にしないでいいよ♪ それより、清川君のほうからメール送ってきてくれて、うれしかった。だいぶ前にメアド交換したのに、全然メールこなかったんだもん。今日からわたしたちカレカノだね~! 改めてヨロシク!!』  メールを読んだ清川は、ベッドの上でひっくり返りそうになった。自分はまだ夢を見ているのだろうか。彼女からこんなメールをもらえる日が来るなんて、想像もしなかった。  ものすごい勢いで高鳴る心臓に押されるように、清川は必死に指を動かした。彼女になんと返信しよう。少し打っては消し、また少し打っては消した。いい言葉が思い浮かばない。一刻も早く、この喜びを伝えたいのに。  はやる気持ちで携帯電話を凝視する清川は、気がつくとまた『あなたはエンゼルフィッシュだ』と打っている自分に気がついて、困ったように笑った。
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