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おばあちゃんにマフラーをもらった。
小豆色の、かわいくない地味なマフラー。使ってたのがもうボロボロだったんだから、ちょうど良かったじゃないってお母さんは言うけれども。その通りではあるんだけれども。
せめてもうちょっと何とかならなかったのか。
落ち着いた良い色だと言われても、そもそも私は青系の色が好きなのだ。着ている服もそっちの色合いが多いのに、首もとだけ赤系だなんて浮くじゃないか。
好きな色はおばあちゃんだって知っている。なのに、どうしてこの色を選んだのか。いや、文句は言わない。言わないけど。
でも、せっかくの大好きなおばあちゃんからのプレゼントなのだ。こんな微妙な気持ちにならず、素直に喜びたかった。
窓の外を眺める。灰色の分厚い雲。木がしなっている。風が強いのだろう。とても、寒そうだ。マフラーが必要なほどに。
こうやって眺めていても何かが変わるわけでなし。諦めてため息をこぼす。
水色のコートに藍色のバッグ。灰色の地に青い模様の手袋は、コートのポケットに入れっぱなし。後は小豆色のマフラー……は、どこ行った。
探す間もなくすぐ見つかった。ベッドの下から少し顔を出している。何であんなとこにあるのか。まぁ良いやととりあえず手をのばす。しゅるりとマフラーは引っ込んだ。
………うん?
じっと床を見つめる。さっきまで、マフラーが顔を出していた。今は何もない。ぺたんと座り、ベッドの下を覗き込む。あった。手をのばせば届く位置にある。
ぐっと腕を奥まで入れる。空振りばかりで何も触れない。もう一度覗き込む。明らかにさっきと違う位置にあった。
ゆっくりと身を起こし、座り込んだまま額をおさえる。
(おばあちゃん……っ!)
いったい何をくれたのか。いや、マフラーだ。マフラーではある。でも、普通のマフラーは勝手に動き回ったりしない。
チッチッチッと時計の音が耳に入り、我に返る。そうだ。待ち合わせ。友達と遊ぶ約束をしているんだった。このままここでマフラーと追いかけっこしてたら間に合わなくなる。
仕方がない。すくっと立ち上がり、ベッドに背を向ける。
「マフラーは、諦める」
そう、自分に言い聞かせる。
きっと、多分、確実に寒いけれど。仕方がない。
ドアに向かおうと足を踏み出した瞬間、しゅるりと何かが首に巻きついた。マフラーだ。小豆色のマフラーが首をおおっている。
現金なっ。
逃げ回っておきながら、おいていかれそうになった途端この態度とは。色々と思うところはあるけれど、何はともあれまずは待ち合わせだ。
外ではおとなしくしていてと、祈りながら部屋を後にした。
後日、あれはいったい何なのだとおばあちゃんに詰め寄ったけれど、
「かわいいでしょう?ふふふ」
と、笑うばかりで何一つ答えてくれなかった。
かわいくなんてない。まぁ、呼べば来るし、電車で寝過ごしそうになった時とか起こしてくれるのは楽で助かっているけれど。それに、全身を使って意思疏通しようとしてくれてる様子は、面白くはある。でも、かわいいなんて断じて認めない。
ただ、まぁ、さすがに情はわいてくるわけで。
衣替えの頃になってもしまえなかったり、夏の暑い日でも出先についてこようとされて拒絶しきれず困ったことになるのは、まだもう少し先の話だ。
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