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山道を歩いていたら、爺さんに出会った。地元の人のようだ。爺さんはこちらを見ると、嫌そうに顔をしかめた。
「何だい、あんたもかい。」
「あんたもって、いったい、どういう事です。」
訳が分からず、俺は訊いた。
「あれだよ、あれ。近頃はやりの。えーと、何て言ったかな。タワースポーツ。」
「もしかして、パワースポットですか。」
「そうそう、それだよ、それ。まったく迷惑なんだよ。あんた、もしそうだったら勘弁しとくれ。」
爺さんは洗濯物を入れるような大きな袋を手に提げていた。
「どういう話を聞いたか知らんが、あそこは何もないんだ。こんなもん結んだって、願いなんか叶うもんかね。おい。」
俺は爺さんが止めるのを振り切り、あわてて駆け出した。山道を登り、記憶をたどり、それらしき場所にたどり着いた。
爺さんの袋の中身は大量のマフラーだった。あちこちの枝に鈴なりに結ばれていたマフラーはどこにもなかった。無論、俺のもだ。どうやら、爺さんが全部回収したらしい。
数日前、ここが「恋愛成就のパワースポット」として写真入りで拡散されているのに気づいて、慌てて来て見ればこれだ。
俺はがっくりと肩を落とした。埋めておいた金塊の行方は永遠に分からなくなった。
(了)
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