5人が本棚に入れています
本棚に追加
3.
「逆っていうと? 好きだとおしゃれをすすめないってこと?」
その質問に、なぜか木下は渋い顔をした。
「ん…………男側はな。独占欲みたいなさ。おしゃれになって、ほかの男に見つけられると嫌だなとか思ったりするんだよ。恋愛感情があると特に」
「ふーん」と返事をしてお茶をすすっていると、唐突に、木下が数分前に口にした言葉が思い出された。
思い出したのはきっと、その言葉も、ふーんと、気のない返事と共に吐き出されていたからだろう。
急に、ほほに熱を感じた。おしりの辺りがムズムズして、だけど不快感はほとんどない。
クリスマス直前の駅前のような、温度のあるざわめきが体全体に広がっていく。
ふと木下と目が合うと、バチリとスパークが発生したような気がして、あわてて顔を逸らした。
心臓が高鳴っている。
独占欲を持たれているかも知れない。
そしてその【かも知れない】を、嬉しいと感じている。
横目で木下の様子をうかがうと、いかにも【やっちまった】な顔をしていた。
こいつとしては、あからさまな独占欲を見せてひかれるのが恐かったんだろう。ヘタレめ。
ひとつ深呼吸をした。
ふふん、木下よ。慈悲深いこの私がお前を安心させてやろうじゃないか。
震えないように意識すると、変に上擦った声が出た。
「ね、ねぇ。さっきの『そのままでいい』ってさ。恋愛感情……みたいな?」
fin.
最初のコメントを投稿しよう!