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他の人達の才能
俺の横で脇を観ていた少年はどうやら才能が発揮出来る様になって、何がしかの情報を得たのだろう。目の前の囚人と思わしき女性は何と冤罪で囚われていたのだと言う。
「えっと、僕の才能は『履歴』と言って他人の人生を振り返って確認出来るみたいです。それによると、この女性は真犯人に罪をなすりつけられて囚われたと有ります」
「なら真犯人は誰か解るのか?」
「残念ながら、履歴は本人だけの様で、他者に関する詳細は含まれていません」
少年は申し訳なさそうに項垂れる。冤罪だと解っただけでも十分なんだが、余計な事を言ったかな。
「それなら、私がその真犯人を見つける事が出来るかもしれないわね。私の才能は『嘘発見』。嘘を付いている奴が居たら間違い無く見抜けるわよ」
匂いを嗅いでいた彼女が答える。長い髪をストレートで伸ばしている為、頸を見る事が出来ない。何て残念なんだ。
「なら、儂がその真犯人との繋がりを覗いてみようかの。『過去視』それが儂の才能じゃ。辿れる時間は1年が今の限界みたいじゃがな」
服を眺めていた年老いた爺さんが名乗り出る。迷宮入りした事件解決に有効そうな、探偵や刑事なら喉から手が出る程欲しい才能だなそれ。
「この女性が捕らえられたのは確か数ヶ月前です。王様の寝所を任されていたメイドでしたが、暗殺未遂で投獄されていました。証拠として押収された所持品の中には暗殺計画書も有りました」
美女が女性が囚われた経緯を語る。時間的には問題なさそうだ。しかし、数ヶ月も冤罪で囚われの身か。自殺防止で、口輪を付けさせたのだろう。身体中に見られる拷問の跡が痛々しい。
「ならば、その暗殺計画書を忍ばせた者が真犯人じゃな。ちと待たれよ・・・、解ったぞい。真犯人は其処におるメイドじゃ」
爺さんが姫様の側に付き従っていたメイドを指差した。真実かは不明だが、メイドは明らかに動揺の顔を隠せずにいる。
「間違い無いわ。このメイド、嘘を付いている。王様の暗殺を他国から依頼されて送り込まれたスパイみたいよ」
メイドは突然踵を返して逃げ出そうとしたが、あっと言う間に騎士達が取り囲んで拘束してしまう。こんな身近に真犯人が居るとはね。もし冤罪で捕まった女性が処刑されていたら、別のメイドに又罪を被せて暗殺を企てた事だろう。
冤罪の女性はその場で拘束を解かれた。目隠しと口輪も外され涙を流しながら俺達に感謝していた。弱り切っていたので、安静にする様美女に促されて女性の神官風の人に連れられて退場する。
「皆様、素晴らしい才能です。勇者様達のお力をどうかこの世界を救う為、是非とも貸して頂けないでしょうか?」
美女が改めて俺達に傅いて述べる。便利な才能だが、世界を救える程の力では無い様な・・・職業勇者だけども実戦経験なんて無い。ぬるま湯の非戦闘な生活を送って来た一般人。
只の平凡な野郎1人、未成年だろう少年1人、大人で年上と思わしき彼女が1人、いつ死んでもおかしくない老人が1人。どう考えても勇者御一行には思えない。
そんな俺達は勇者として異世界に召喚されてしまった。フェチが異世界を救うってか? 有り得んだろう。
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