いつか、終わるその日まで。

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 信二の通う天河高校は、全校生徒数千人を超えるマンモス校である。  この学校には特進科と普通科が存在し、特進科は国公立大学を目指す生徒が、普通科は私立大学や就職希望の生徒が在籍していて、その授業内容には雲泥の差がある。信二と優は普通科だ。  小川優はクラスのいじめられっ子である。つり目の一重、下膨れの顔。しゃべるのが下手で、ぼそぼそと聞き取りづらい。いじめられっ子の典型だ。  いじめの内容は、陰口に始まり、彼女が発言するとき物音をたてる、おかしな行動を取ったら大声で言いふらす、など。  今も、日直の「着席」の合図で優の後ろの席の女子が、彼女の椅子を引いた。ドラマなんかでは、着席の際にお尻を椅子に降ろし損ねたいじめられっ子が無様にこける。  ただ、実際にやると難しい。前と後ろの席の間隔が狭く、十分に椅子が引けないからだ。椅子は優のお尻を何事もなく受け止めた。後ろの席の子が隣の男子に口パクで「失敗した」。それを隣の子は「へたくそ」とニヤリ。当の優はそれに気づいているのかいないのか、無表情で教卓の方を向いている。  そして、教卓から見えていたはずの教師はしれっと「テストを返すぞ」。  数学担任の男性教師は、先日の中間テストの束をどんっと威圧的に教卓の上に置いた。  生徒の名前が呼ばれて、各々テスト用紙を受け取りに行く。あちこち輪を作って「どうだった?」「やばい」の会話はテストが返ってくる時の恒例行事だ。  クラスで一番頭のいい望月楓(もちづきかえで)の周りは特に人が集まって「惜しい、九十八点!」なんて声が聞こえてきた。  信二はそっと優の方を伺ってみる。斜め二つ後ろの信二の席からは、彼女の様子がよく見える。優の手元にある答案用紙の結果は九十六点だった。
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