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いじめの中心は園田美穂だ。彼女は特別性格の悪い人間というわけではない。スレンダーで運動神経がよく、勝気ではきはきと発言する在り方は人気があるし、面倒見もいいほうだろう。ちなみに好みのタイプはクール系なのだと、これは美穂の方から教えられた。
そんな彼女にも、嫌いなものは存在する。その枠に優が入ってしまったのだとクラスの者たちは思っている。
生理的嫌悪感というのはどうしようもない。優の嫌われやすい性質も、信二はわかる。
「いじめられる側にも原因がある」とは、いじめる側の常套句であり大義名分だ。あれは言い訳の言葉ではない。
朝の登校時間、優が教室に現れるのはいつも始業ぎりぎりだ。実際は誰よりも早く来て、鞄だけ置いて図書室へ向かうらしい。だからこの時間は比較的和やかな空気が教室内を流れている。
しかし、優が姿を見せると全員でしんっと静まり返って、あっちで目配せ、こっちでひそひそ。
優は無表情だ。図書室で借りてきた文庫本を手に、席に向かって机と机の間を歩く。と、その体がつんのめった。
「ちょっと、気を付けてよね」
言っておきながら、自分の席から足を突き出しているのは美穂だ。嘲笑を隠しもしない。
優は無言で上体を起こすと、じっと美穂を見つめた。
そのまま数秒。そうしてようやく優が口を開く
「ごめんね」
「いや、いいし」
「うん、ごめん」
じっと、目線は美穂に向けられたまま。また優は黙り込む。だんだん美穂が苛立ちはじめた。
「いいって言ってるし。もう行ってよ」
優はようやく自分の席へと戻っていった。そして着席すると文庫本を開いて、黙々と読みはじめる。美穂と優の席は縦に二つしか離れていない。「きもいきもいきもい」と繰り返す美穂の声は聞こえているだろう。
腹の虫が収まらないらしい美穂が、優の隣の席の男子に目配せした。その男子は定規を机から取り出すと、読書中の優の肩に向けて先端をそろそろと伸ばす。
くすくす、にやにや、周りからは密やかな笑い声。男子生徒は定規で優の肩を叩くと素早く腕を引く。そのままわざとらしく明後日の方角を向いた。
しかし優は読書を続けたまま。先ほどの男子はつまらなさそうに、もう一度定規の先端を伸ばそうとして――優が笑った。
本に向かって前かがみになって、笑いながら読んでいる。男子生徒は気持ち悪そうに定規を机の中に戻してしまった。
その様を最後まで眺めていた信二は、教科書を取り出すと自習を始めた。
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