いつか、終わるその日まで。

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 その日の放課後も、優はまた蔵書室でマフラーを編んでいた。隣の図書室からは生徒の声が聞こえてくるが、壁一つ隔てたこの部屋までは滅多に人が入ってこず、一人になるには丁度いい。  前回と同じ書架棚の前に座り込む彼女を見つけた信二は、挨拶よりもまず疑問を口にした。  「朝のあれって強がり?」  優は顔を上げて信二を見た。返事はない。  「えっと、いじめに負けるかみたいな」  定規で叩かれて、気づけなかったとは思えない。あれは、ただのやせ我慢だったのではないか。  「どうだろ」  優は眉間に皴を寄せてぼそっと答えた。そのまま少し考えていたようだが、結局マフラーを編む作業に戻ってしまう。信二は困った。優はいじめに気づいていたことを否定しなかった。しかし、『どうだろ』とはどういう意味か。  会話の糸口が掴めず、結局話題を変える。  「そのマフラー、随分と長いけど。いつから編んでるの?」  「中学から」  「そりゃあ凄いね。どのぐらいで完成する?」  「終わるまで」  信二は頭を抱えたくなった。その終わるまでがどれぐらいかを聞いているのだ。優のマフラーは実用性を考慮しても長すぎる。床でとぐろを巻く様は蛇に似ていた。それに幅もまちまちで、ほつれもある。    「これは私の人生だから」  メンヘラか。信二はかろうじてその言葉を飲み込んだ。  優は、手を止めてマフラーの表面を撫でる。そうして脇に置いていた百均で見るようなスプレーボトルを手に取ると、マフラーにその中身を吹きかけた。果物に似た臭いがした。
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