いつか、終わるその日まで。

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 「あんた最近、放課後に青木君といるでしょう?」  優の席を、クラスの女子が囲い込んでいる。中心は美穂だ。いつもの勝気な顔ではなく、少し青ざめて唇を噛みしめている。  「蔵書室から二人で出てくるの、見た子がいるんだから」  優はたった今読んでいた文庫本から顔を上げて、そして美穂を見上げた。一拍置いてようやく「あぁ」と気のない肯定。  ばんっと美穂が優の机を叩く。彼女の顔がくしゃりと歪んだ。  「何様のつもり? 放課後に二人きりって、どういうことよ!」  「……」   優の反応は鈍い。それが美穂をさらに煽る。なにも知らない人間が見たら、まるで彼氏を取られた女と奪った女の修羅場だ。  こっちにそのつもりはないけど、と…ちょうどトイレから戻ってきた信二は、廊下から女子たちのやりとりを眺めた。同じく廊下にいたクラスの男子が「もてる男は辛いねぇ」などと信二に絡んでくる。  「マジどうなんだお前。どっちかと付き合ってんの?」  「まさか。園田は勝気すぎ、小川は論外」  まあ、美穂に言い寄られていたことは否定しないが。  「大体こっちはあと一回しかチャンスが無いんだ。恋愛やっている暇はない。勉強のために人の来ない蔵書室行っただけ。そこにあそこをねぐらにしていた小川がいただけ」  「ああ、お前特進科狙いか。いやそれより、ねぐらって!」  げらげらと男子生徒は腹を抱えて笑い出した。全く暢気なものだ。信二は違う。信二にはもうあとがない。  教室の中では、ついに泣き出した美穂と、それを慰める友人たちと、それに囲まれながらさっさと文庫本を読むことに戻ってしまった優の姿があった。  面倒な予感がした。  翌日、優の机と椅子に「死ね」「きもい」「消えろ」という落書きが油性ペンで残され、ロッカーに置き勉していた教科書はあちこちページが破りとられていた。  馬鹿が。と信二は思った。  優はその、消すことも誤魔化すこともできない明確ないじめの証拠を担任に突きつけた。  担任が「その件は一旦こっちで預かるよ」とお茶を濁したことに納得だけしてみせて、そして次の休み時間には校長室に特攻をかましたのだ。  ――大馬鹿が。
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