いつか、終わるその日まで。

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 教室内が騒然としている。昨晩の焼却炉火災、死者一名。その死者はこのクラスの生徒だ。マスコミやら学校の責任やら、教師たちは忙しそうである。  多分このまま優のいじめも、うやむやになってしまうのだろう。    「一番死亡率の高い方法って言ったのに」  死んだ生徒の名前は青木信二。女子に人気があって、彼に想いを寄せていた美穂など、まるで通夜のような有様だ。校長直々に呼び出されて直接優に謝罪した時ですら、あんな顔はしていなかった。  どうせ、いじめなんてものは一旦止んでも、ほとぼりが冷めればまた始まるのだ。そんなものだ、優の人生は。  優だって昔は頑張った。人と同じように話そう、その輪に入ろうと。  しかしいざ口を開けば、焦って脈絡を失う。輪に入っても話題についていけず、結局一人で取り残される。そうしてだんだん疎外され、はみ出し者に待っているのはいじめである。  だから、マフラーを編んだ。辛いばかりの人生、いつか耐えられなくなるその日まで。いつか、頑張って生きてこられた人生を振り返り、抱えて死ねるその日まで。  優は机の中からスプレーボトルと鍵編み棒、新しく買ってきた毛糸を取り出す。  ボトルの蓋を少し緩めれば、果物の臭いがした。  中身はオクタナール。  第四類危険物、引火性液体。消防法お墨付きの燃えやすい液体だが、香水や石鹸なんかに使われている。優の持つオクタナールの購入元はネットだ。  自殺で死亡率が一番高いのは焼死である。首吊りは王道だが、生還率も高い。焼死は生還率が低い上に、たとえその場は助かっても後遺症などで死ぬことができる。だから毎日たっぷりと、マフラーにオクタナールをふりかけていたのだ。  「またマフラー、編みなおさないと」  優は編み棒に毛糸を引っ掛け、くるりと回して目を作る。この人生を、形作る。  ――いつかこの身が終わる日まで。
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