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②
『向日葵がお前の地元にいたぁ? 嘘つけよ、ただのそっくりさんだろ』
ぼくの高校時代の唯一の友人、米田(よねだ)は電話越しに、呆れかえったような声でそう言った。
「本当だって! あれは絶対に向日葵ちゃんだった。ぼくが間違えるわけないだろ!」
実家の自室の中に、ぼくの叫ぶ声が響き渡る。
『じゃあ、声をかけたのかよ?』
「いや、それは、かけたんだけど……」
ぼくはあなたのファンだったんです、と震える声で話しかけた。
しかし、結果はひどいものだった。彼女を怯えさせてしまい、そしてぼくは拒絶された。
長塚(ながつか)向日葵は、ぼくと米田が高校生のときにドハマりした地下アイドルグループ『メルシー』の中心メンバーであった。
わざわざ「であった」と過去形で表現したのには理由がある。『メルシー』は二年前に突然解散してしまったのだ。
何の前触れもなく、そして運営やメンバーによる説明すらもなく、ただ解散したという事実だけが文書の形でネットにあげられたのだった。
また別のアイドルとして活動を始めるメンバーもいたが、向日葵ちゃんは違った。
ブログやSNSもすべて消去され、業界から完全に姿を消したのだ。
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