Give me chocolate.

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Give me chocolate.

2019年のバレンタインで書いたif小説です *** 「本命チョコが欲しい」  橙の言葉に、キーボードを叩く手を止める。ちらり、と橙を窺うと、何かを期待した目でこちらを見ていた。思わず顔を引き攣らせ、視線を逸らす。橙はそんな俺のリアクションを気にする素振りを見せることなく、言葉を重ねた。 「赤の本命チョコが欲しい……ッ」 「うるっせぇ仕事しろ」  しっし、と追い払う仕草をすると、横から声を挟まれる。 「俺も赤からチョコ欲しいなぁ……。赤とイベントしたいなぁ……」  青が媚びるように俺を見る。よくよく周囲に注意してみると、他の面々も何かを期待したように俺を窺っていた。 「なに? チョコ食いたいの、お前ら」  お金あげるからチョコ買っといで。  ほら、と机の上に千円札を出すと、「違う!」と不満げな声が上がる。 「赤。バレンタインって何の日か知ってるか?」 「知ってるよ。チョコいっぱい食える日だろ」  正解、という言葉の代りに上がったのは、またも不満げな声。モテ男の発言だ、と呟いた木下は、ふてくされた表情で仕事を再開した。 「いいですか、赤。バレンタインは、相手に想いを告げる日です。チョコは、ある意味オマケ、オーケー?」  なぜか英語で詰め寄る青に、「OK」と首肯する。発音がいい、と言いつつ青は主張を続ける。 「ということなので手作りチョコください」 「嫌だ」  また、不満げな声が上がる。なんなんだお前ら。 「既に完成された状態のチョコをわざわざ溶かす意味が分からん」 「そこは相手が頑張ってくれたっていうスパイスが効いてるんじゃないですか」  じっと成り行きを見守っていた神谷も話に加勢してくる。なんでそんなに必死なんだ。俺は溜息を吐き、ソファ前のテーブルにチョコの詰め合わせを置いた。 「花井と長谷川が買った方がいいって言うから」 面々の息を詰める音がやけに大きく聞こえる。目を逸らし、何食わぬ顔で仕事に戻る。カタカタとキーボードを叩き、思い至る。そうだ、そういえばバレンタインは想いを伝える日とか言ってたな。手を止め、テーブルに群がる委員たちに声を掛ける。 「……いつもありがとう」 「~~っ」  へら、と笑うと食い入るように見つめられる。 「ぅぅこちらこそ……ッ!」  強請った癖に顔を真っ赤にし照れる面々に苦笑する。 「うう~大切にするぅ……っ」 「ちゃんと食えよ」  こんなに喜んでくれるなら、来年は手作りするのもそう悪くないかもな、なんて。伝えはしないけれど。  
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