節分SS

1/1
前へ
/34ページ
次へ

節分SS

中学時代 (Twitterに上げたSSを転載) * 「この豆をどうしろってんだよ」  顔を顰める俺に、夏目はにやりと笑ってみせる。 「赤ぁ。これは鬼にぶつけるもんなんだぜ?」  かっこつけて言った割には微妙な使い方だ。というかこれ、節分用の豆か。急に炒り豆なんて渡すもんだから意味が分からなかった。  無言のままじとりと見つめると、夏目は悪戯っぽい表情を苦笑に変え、何かを持ち上げ顔前に持ってくる。 「やー、ほんとは渋川さんに頼むつもりだったんだけど、似合いすぎて怖いだろ?」  鬼の面で顔を隠す夏目に、もしこれが渋川さんだったらと想像する。軍人上がりとも噂される渋川さんに、鬼の面。  ……うん。それは似合いすぎて禁忌の域だろう。桃あたりがびびり散らしそうだ。確かにと苦笑すると、夏目は俺の髪をかき混ぜる。 「……んだよ」 「いや?良い奴だなって思って」 「……意味わかんね」    出会った時から思っていたが、こいつ人のことを好意的に解釈しすぎではないだろうか。そもそも俺は助けようなんて思っていなかった訳で――  考える俺の腕を、夏目はぐいと引っ張る。 「という訳で、俺が鬼やるから!あいつらもじきこの公園に来るし」  先に打つける練習でもしておく?  夏目の言葉に内心首を傾げる。  練習……?節分に精通していない俺だが、それは一般的でない気がする。 「じゃ、早速!」  やるのかよ。出会って二ヶ月ほど経つが、こいつのノリには未だ慣れない。ここまでしつこい奴なんて、他には甲斐くらいしかいなかった。かくいう奴も意味深に笑うだけで何をしてくる訳でもないのだが。  夏目に促され、いやいや豆を投げる。ゆるい投擲に夏目は微妙そうな顔をする。 「威力、足りなくないか?」  威力、必要か?  ツッコむのも面倒で、黙って威力を上げる。節分、絶対こんなんじゃねぇと思う。  びゅん、投げると豆らしからぬ激しい音が返ってくる。ごりっていったぞ大丈夫か。 「ちょっ、痛ぇ!痛ッ!」 「……」 「赤ッ? ちょっとー!」  強すぎるとか知らねー。  俺と夏目の攻防に遅れて到着した他のメンバーが参加し、族同士の抗争のようになったのはまた別の話。 「おい、Coloredの幹部が喧嘩したってよ」 「聞いた話では鉄砲撃ち合ってたって話だぜ」  すっかり校内で噂になっている。鉄砲というのは、水鉄砲に豆を装填したことだろうか。弾詰まりの頻度を思うと、案外素手で投げた方が威力あったなぁ。 「怖い話だね」  考え事にふけっていると、甲斐に話を振られる。俺は甲斐に黙ってこくりと頷いた。Coloredやべー。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加