神谷とデートする話

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神谷とデートする話

「あんた、明日暇ですか」 「明日?」  風紀室から寮への帰り道。唐突に言われた神谷の言葉に目を瞬かせる。  明日。明日は土曜だ。用事らしい用事は特になかった。授業で分からないところでもあったのだろうか。  暇だけどと返すと、神谷は不機嫌そうに黙り込む。強張っている口元に、何か言いにくいことなのだろうかと思う。神谷は小さく息を吐き出すと、二枚のチケットをポケットから取り出した。 「……これ、今やってる映画のチケットで。テスト勉強の面倒みたお礼って鈴木から貰ったんですけど、行きませんか」 「お前が俺でいいなら、行こうかな」  なんだ、勉強に関する悩み事ではなかったのか。俺で役に立てるものだろうかと内心心配をしていただけに少し拍子抜けだ。なんとも言えない気持ちのまま、手渡されたチケットをよくよく見る。 「……ん? 恋愛映画?」  『キスしてよ』というタイトルに苦笑うと、神谷は気まずそうに顔を顰める。 「……鈴木のセンスだから僕に言われても」 「悪かったよ。で? 何時にどこ集合だ?」 「十時に寮の玄関集合で。街に降りてから昼食べて、それから映画を観ましょう」 「ん。楽しみだな」   了解の意味を込めて頷く俺に、神谷はぽかんとした顔を返す。 「……楽しみ、なんですか?」 「えっ? あぁ、うん。楽しみ……だけど。神谷は違った?」  一人浮かれちゃって恥ずかしいなと視線を逸らす。いえ、と思わず口からこぼれたかのようなぼんやりとした返事の後、神谷の表情が変わる。 「ッ、いえ! 楽しみ、です!」 「ふ、そう? そりゃ、よかった」   噛み付くように再度繰り返された言葉はどこか嬉しそうで。神谷も同じだと気づいた俺は俺は相貌を崩す。  明日、十時に寮の玄関集合。そっと口に出すと、もうすぐそこの寮の玄関が、特別な場所に変わった気がした。
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