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ハロウィン小ネタ
2018年のハロウィンに書いた小話です
*
不機嫌そうな顔をした二村に苦笑する。
「いい加減腹括れ」
「何だって俺がこんなバカみたいな恰好……」
「似合ってるぜ、色んな意味で」
ブツブツと文句を言う二村の格好は、狼男のコスチューム。かくいう俺は吸血鬼のコスチュームだ。生徒会主催のハロウィンパーティーに運営として駆り出された俺たち風紀は、半ば強制的にハロウィンの仮装をさせられていた。とはいえ、仮装をするのは風紀の中で二人だけ。本来なら青と俺がやることになっていたのだが、手渡された衣装が狼男と吸血鬼の物だったので二村が押し付けられたのだ。なんだかんだ能力の高い青の弁舌に二村が押し負けた形だ。哀れ二村。
俺はといえばそこまで仮装に抵抗感がないので言われるがままに引き受けた。嫌まぁ正直な話、青と橙がカメラを新調したと聞いた時には降りていいかなと思ったが。あいつらちゃんと仕事をするつもりがあるのだろうか。怪しいところだ。
「色んな意味ってンだよ」
「ほら、正しく一匹狼って感じ」
「クソが、ふざけんな」
二村に背中を軽く叩かれる。いやだって思うだろう。逆にこれを思わず何を思えというのだ。
「夏目の野郎もおかしな理由で押しつけやがるし……納得いかねぇ」
「ああ……お前にしか任せられないとかいうあれか。ただの本心だろ」
どう考えても狼男が一番似合うのは二村だし。青の言に賛同を見せると、二村はもにょもにょと口籠る。
「やるって言ったから最後までやってやるよ……」
「おー、助かる。ありがとう。折角仮装したし写真でも撮っとくか? イベントのお決まりなんだろ、こういうのって」
スマホを取り出し提案すると、二村は眉間の皺を深くする。色んな感情がごちゃ混ぜになったような微妙な表情に困惑する。
「……や、やめとくか? 悪い、困らせるつもりじゃなかったんだ。写真苦手そうだもんな、ごめんな」
「と、る」
「……そうか?」
「写真撮ったからって死ぬわけでもねぇ。寄越せ」
手を差し出され、スマホを預ける。二村はスマホを横持ちする。
「映んねぇな」
「インカメラに切り替えないとダメなんじゃないか?」
「イン……?」
貸せ、と再度スマホを預かり、設定を弄る。二村はほぉーと感心した面持ちで手元を覗き込む。
「ほら、これでここを押せば撮れるはず」
「分かった」
二村はスマホの高さを苦労しながら調節し、二人が映るようにした。
「よし、押すぞ」
「おー」
「……」
ハイチーズだとかそんな合図をすることなく、ぱしゃりと無機質なシャッター音が聞こえる。
「おらよ」
「ん」
撮れ具合を確認すると、画像の右の方が二村の指でぼやけていた。
「下手くそ」
笑うと、二村は嫌そうな顔をし画像を消そうとする。
「あ、待て。消すな」
「失敗してんだからいいだろ」
尚も消そうとする二村から慌ててスマホを奪い取る。
「これはこれでお前が頑張って撮ったやつだろ。微笑ましいから取っておきたい」
「……あ、そーかよ。勝手にしろ」
そっぽを向き、会場の隅に去ろうとする二村。少しからかいすぎただろうか。離れようとする二村の服の袖を軽く引っ張り、振り向かせる。
「なん……」
「Happy Hallowe'en!」
二村の言葉を遮り、飴を差し出す。へにゃ、と笑ってみせると二村はため息を吐き飴を受け取った。
「俺はTrick or Treat?なんて言ってねぇけどな」
「折角配る用の飴を生徒会から貰ったから渡したかったんだ」
いちご味だってよ。
包装を破り自分の口に同じものを放りこむ。砂糖が多いのだろうか、飴からはいちごの味を感じられない。
「いちごなのは色だけっぽいな」
「甘ぇ……」
ほんとにな、と返すと二村はもう一度甘いと独り言ちた。
***
オマケ
「風紀が仮装? なんでまた」
「いや、その……」
困り顔で衣装を持つ円に問い返す。しばし口籠った円は、気まずそうに口を薄っすらと開く。
「この前の新歓で一緒にイベント進行できたのが楽しくて……。生徒会が仮装するのは決まってたんだが、由もそれに参加してくれたら楽しいかなと思ってねじ込んだ」
ダメか? と首を傾げる円に顔が引き攣る。仮装をするのが別段嫌という訳ではない。ないがだがしかし。こうも頼まれたら絶対に引き受けなければならない気がするではないか。
「だ、ダメじゃないよ円。うん、そうだな。いいよ。仕事自体は変わらないし。衣装が変わるだけだ。問題ない」
ぱぁ、と花を散らす(もちろん脳内イメージだ)円から衣装を受け取る。吸血鬼と狼男か。
「由と、あと一人は夏目かなと思って二着用意した。夏目が嫌がったら他のやつにしてくれ」
「分かった。円は何を着るんだ?」
「俺? 俺は墓守。こう……ランタンとシャベルを持つらしいぞ」
「ほぉ……」
色んな種類の仮装があるんだな。
「そうだ、由。当日は写真撮ろうな。こういうのはイベントのお決まりだ」
「ふぅん? そういうものか。分かった。そっちの手が空いた時に声かけてくれ」
おう、と喜び立ち去る円を見送る。さて、仮装か。果たして青は大人しくやるだろうか。散々抵抗する青を思い、人知れず笑みを零した。
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