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杏は分かり易いくらいに動揺した。
「ちょっと無理です」
「力づくはイヤでしょう?だったら自分で羽織ってるのだけでいいから、脱いで」
体を後ろにひこうとしたところを彼女の腕を捕まえる。
「大声出します」
「出してもいいけど、人が来る前に脱がせることは出来るよ」
観念した彼女は羽織っていた薄物を脱ぐ。
思った通り。腕には絆創膏がいくつも貼られている。
羽織で隠していた手には軽く包帯まで。
前髪で隠しているけど。こめかみ辺りにも擦り傷がある。
「暴行されたの?相手は?病院行った?警察には届けたの?」
自分の方がはるかに動揺しているがわかる。
「襲われそうになったけど、ちゃんと逃げましたから。これでも護身術、習ったんで」
護身術?オーストラリアにいた時に習ってたの?
誰から身を守るため?
「怪我したところは?」
「擦りむいたぐらいです」
「荷物まとめて。とりあえず、今日から週末は俺の所で。会社が始まる月曜からのことは後で考えよう」
「大丈夫です」
「どこが大丈夫?擦り傷だらけだし、腫れてるし。一人で置いておけるわけないでしょう?なんなら身一つでもいいけど。どうする?」
ちょっとの間、軽くにらみ合う形になったけど、先に目を逸らしたのは杏。
やっと動き出した彼女は大きめのバックに荷物を詰め始めた。
俺って、信用されてるんじゃなかったの?
俺の所にいた方が安全に決まっている。
誰にも手だし、させやしないから。
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