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俺の部屋に着くと、彼女は大人しくソファーに座った。
「下着は脱がなくていいから、洋服脱いで、このバスローブ羽織って。背中の傷、みるから。」
「イヤです」
「背中の方だと自分で分からないでしょ」
彼女は固まったまま。
「俺が脱がせる?」
「絶対イヤだ」
そんなにはっきり言わなくても。
「そこまで言うなら、さっさと脱いで傷見せて」
パウダールームでバスローブに着替えた杏をソファーの端に座らせて、彼女の背中側にまわる。
少しずつバスローブを下にずらす。
背中にも打ち身や擦り傷跡がいくつかある。
どれだけ抵抗したのか、怖かっただろうな。
「腫れてるとこに湿布貼って、擦り傷になってるとこは消毒して絆創膏はるよ」
腕に比べれば、まだマシだけど、結構赤くなっている所も多い。
たまに沁みるのか、ちょっと体をこわばらせるときがある。
彼女の背中を見ながら、こんな細かったのかと思う。
照明のせいか、肌が白い。
どっちかというと、いつも強い面を表に出そうとしているからか、華奢なイメージはなかったんだけど。
ちょっとだけ、なまめかしくもあるし。
下ろしていたバスローブを肩にかけ直す。
「ありがとうございます」
「病院、行かなくてもいい?」
「大丈夫です。ホントにされてはないんで。思いっきり噛みついてやりましたよ」
辛うじて、微笑みを浮かべようとする。
「無理して強がらなくても良くない?」
彼女の頬に指を触れる。少し顔を上げさせる。
決壊寸前だな。
「泣いていいよ」
涙が静かに流れ始める。
「怖かった?」
「なんですぐに助けに来てくれなかったんですか?」
「はい?」
「名前、呼んだのに」
俺を呼んでくれたの?
「三上さんって?下の名前も知ってる?下の名前で呼んでくれてたら行けたかも」
ちょっと呼ばれてみたい。
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