チンピラとアニキと絡まれた弱気な少年の事情

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*豊和* 冬の寒い田舎道、俺はケンイチを乗せてのんびり走っていた。もうとっぷり日は暮れている。 「ありがとうございますアニキ!俺、あんなにうまい牛丼初めて食いましたよ。うち、貧乏でしたから。特に最近文無しだったもんでアニキにひろってくもらうまでロクなもん食ってなくて、なんていう高級店でしたっけ?」 「はあ?!っぉま・・」 お前吉野家も知らねえのか!? という言葉を俺はすんでのところで呑み込んだ。 いる、いるよ。吉野家の牛丼を食ったことのない人。食いたいと思わないから、機会がないからとか、金持ちすぎてとか、100円すら持ってなくて100円マックすら食えない人、そりゃいるさ。 実際俺だって財布に100円も入ってないときがあった。どれだけさがしても98円しかないから、2円足りないから買えないとか。 誰にだってそんな時期あるさ。 「喜べケンイチ、アンくらいの店なら毎日でも連れてってやる」 「ほ、ほほ、ホントっスか!アニキどんだけカ、ね、じゃなくて、あ、いや、これは失礼だ。アニキすげぇ。俺、アニキに盃頂いてホントによかったっス!精一杯アニキについていきます!」 「ありがたいけど、そんなに力むな。お前に世界の広さというものをみせてやる。他にも美味いもんはいくらでもある」 ケンイチの勘違いに乗じてでかいことを言って、俺はハンドルを左に切った。俺は車の運転にわりと自身のあるほうだ。 直線でスピードを出すよりカーブを攻めるのが好きだ。 カーブの攻め方の基本はアウト イン アウト。ヘアピンカーブをイメージすると、半円のカーブを円の外側から入り、カーブの一番急なところで外、真ん中で中、カーブの真ん中を過ぎるところで外、そうするとヘアピン 、アルファベットだと 「 U 」がひらがなだと向きが逆になるけど「へ」くらいになる。というか、緩やかになる。 まだ下っ端だけどヤクザお決まりのセンチュリーに俺は乗ってる。 確か新車だと一千万するけど古いからものすごく安い。 センチュリーかプレジデントに皇族は乗るんだっけ? 高そうなスポーツカーに直線で詰められてもカーブが続けばうんと引き離してやれる。その次の直線で抜かれてもさほど腹は立たない。 カーブではお前の負けだって言えた気がして。 「アニキ、山道に入ってからやたらと来ますね、後ろのやつ」 たしかにカーブの連続する山道に入ってから後ろの軽に追いつかれている。 車間はしっかり空いていて明らかに煽りではないがまたケンイチにかっこつけたくて俺は「いっちょ引き離してやるか」と息巻いた。 「アニキについてこれるやつはいないっスよ!」 俺はカーブの真ん中でアクセルを踏み込んだ。 、、、 あれ、、。
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