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3、望まぬ触れ合い ※
今日もまた、朝がやってきた。
天井から光が降り注ぎ、優しく部屋を照らす。着替えないと。
「おはよう、『巫女様』」
いつ入ってきたのか、シェスが扉に寄りかかっていた。いつも通りの歪んだ笑みを浮かべている。
「…何でいるんだよ」
「さぁ、何でだろうな?」
正直に答えるなんて思ってなかったけど。
ムスッとした顔をしながら睨み付けると、シェスはにこにこしながら近づいてきた。
「最近、巫女様を拐う輩が出るらしい」
「ふぅん」
「何だよ、『巫女様』。あんたも狙われてるってことだぞ?」
「こんなところまで来る奴なんていないよ」
シェスから目線を逸らし、ベールを目深に被る。
ここは巫女たちが住まう宮殿の中でも最深部に当たる。外を見回すと森が広がり、長い長い、気の遠くなるような廊下を進まないと、宮殿の入り口までたどり着けない。
こんな奥深くに来ることが出来るのは、世話係の女中か、選ばれた騎士のみだ。拐われる確率は限りなく低い。
「分からないだろ?アイルは可愛いんだし…心配だ」
つ、と頬をなでられ、体が震える。
「…っやめろ」
「おっと」
ぐい、と腕でシェスの手を払いのける。
思ってもいないことを、この男は簡単に口にする。
「はは、相変わらずつれないな」
「外に出てくれ。祈りの間に行く時間になるから、着替える」
「どうぞ?着替えたら?」
「…シェス」
「今さら恥ずかしいも何もないだろ?ああ、それとも、」
あっ、と思った瞬間には、天井を見上げることとなった。じたばたともがくが、体格差のせいで抜け出すことができない。
「離せっ」
「着替えさせてほしいんだろ?」
「ちが…っ、んん…ん、!」
顎をくい、と持ち上げられ、キスをされる。
シェスのキスは苦手だ。
呼吸も、心も、苦しくなる。
ぎゅ、と口を引き結んで耐える。
「…口、開けろよ」
「いた…っ、ひ、やぁ…っ」
しかし、シェスに唇に噛みつかれ、痛みに口がわずかに開いてしまう。
「…っ、…ふ、ぁ…あ…んん」
くちゅり、と生々しい音が響き目眩がしてくる。くらくらしながら、あとはシェスにされるがまま。不覚にも前が反応してしまう。
「ああ、気持ちよくなったのか?せっかくだから抜いておくか」
「や、やだ!やめろ…っ」
必死で身をよじっても、簡単に押さえ込まれてしまう。でも、嫌だ、こんな風に流されてばかりは、嫌だ。
するり、と内股に手が伸びてくる。
「…ひゃ…っ、…っ、………やめろっ!!」
ぞわぞわと、何かが這い上がるようなその感覚を振り払うように、俺は、手を振り上げ、むちゃくちゃに振り回す。
ぱん、と渇いた音が響いた。
「…いってぇ」
「…は、はぁ…」
「あーあ、萎えた」
「…っ」
つまらなそうにシェスは俺の上から降りた。
その蔑むような瞳に、身を固くする。
「で…っ出ていけ!」
「分かったよ」
気だるそうに髪をかきながら、シェスは帰っていった。振り返ることは、なかった。
「…っう、く…っ」
涙が溢れてくる。
俺はどうしたって、シェスが遊びたいときに遊ぶ玩具だ。そしてシェスはいつでも俺を捨て去ることができてしまう。そんな使い捨てだと、痛感してしまう。
思い通りにならなければ、飽きられて、捨てられる。でも、玩具扱いされながら身体を暴かれるのは嫌だ。
どちらにしても俺は近い将来、心を殺されてしまうと、思った。
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