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7、夢うつつ ①
夢を見た。
優しくて甘い、残酷な夢。
「巫女様、俺が必ずあなたをお守りしますから」
嘘つき。
「あなたの笑った顔が見たい」
泣いてばっかりだ。
「辛いことでもあったんですか?」
好きになってから辛いことが増えたよ。
「好きですよ」
嘘つき。
お前は、いつも、嘘ばかりだ。
嫌い。嫌いだ。嫌い嫌い…
…違う。
俺も、嘘つきだ。
**
シェスと出会ったのは、俺が宮殿に押し込まれてから3ヶ月ほど経った、ある雨の日だった。
その日、霧のような雨が降るのを、窓辺からぼんやりと眺めていた。自分が生きているのか死んでいるのかも分からなくなっていて、このまま雨に紛れて溶けて消えてしまえればいいのに、と思っていたことを覚えてる。
ゆらゆらとした気持ちをもて余していると、こんこん、と扉が叩かれた。
「…?」
この部屋に客は来ない。
1ヶ月に1度程度、国のお偉いさんが、俺がきちんと飼い殺されているかを見に来る以外は、来客なんてものはない。そして、その訪問はすでに3日前に終わっている。
ぐ、とベールを目深に被る。
「……誰?」
「失礼いたします」
扉を開けて入ってきたのは、長身の青年だった。こんな鬱屈した天気の中でも、青年の金色の髪は輝いていて、眩しい、と思った。
色を失っていた世界に、強烈に落とされた眩しさだった。
「…」
「はじめまして、『巫女様』」
呆けてる俺に近寄り、10歩ほど離れたところで青年は跪づいた。笑顔も眩しい…。
「本日より奥の殿に配属されました、ルーシェス・ユールと申します。以後、お見知りおきを」
「…(騎士だ)」
この巫女の住む宮殿に配属される騎士は、王国の中でも信があり、かつ武力も立ち振舞いも全て秀でている者だけだという。
「では、私はこれで。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。失礼致します」
「…」
青年はスッ、と立ち上がり、一礼をして去っていった。同性の俺から見ても、青年はカッコよくて、涼やかで、ドキリと心臓が高鳴った。
「…男なのに、変だ」
急に生まれた妙な感覚に、ぎゅっと手を握った。3ヶ月まともに人と話していないし、かなり精神的に参ってしまっているのかもしれない。でも、いつも来るお偉いさんとは違って、また会ってみたいと思わせる青年だった。
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