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1、俺の可愛い玩具①
「巫女様、俺が必ずあなたをお守りしますから」
そう言って俺に跪いた彼は、とてもカッコよくて、優しくて…厄介者のはずの俺にあたたかく微笑みかけてくれた。不覚にもドキリと心臓が高鳴ったことを覚えている。
それが「仮面」なのだと気付けていたら、もっと違う未来があったのだろうか。
**
俺が住んでいる国は、神や精霊など、目に見えないものを礼賛している。そのため、巫女や神官が待遇されていて、人々はそれらの職に就くことを夢見ていた。もちろん、望めばなれるものではなく、それらに就くには家柄や献金が必要だった。聖なる職であるのに、随分俗物的だと思う。
「…俺とこんなことをしてるお前も、聖職者のくせに俗世に塗れてるよな」
にやっと嫌な笑いを湛えながら、シェスが俺を引き寄せた。身につけるものは何もない。
「…」
「そんな怖い顔するなよ」
初対面の時はあんなに清らかな空気を纏っていたのに…蓋を開けてみたら、シェスという男はとんでもない奴だった。
最初は出会った時と同じように、優しい物腰で、あれこれと俺の世話を焼いてくれた。彼の役職は巫女を守る騎士。そのため、羨望と嫉妬に晒される俺のことを守り、中傷に傷ついた俺の心を癒してくれた。「大丈夫、俺がそばにいます」って、頭を撫でてくれて。
騎士はみだりに巫女に触れてはいけないことになっているから、そっと陰で、少しだけ触れてくるその手が好きで。
俺には周囲には隠してる秘密があったから、本当はそんな触れ合いもしてはいけないし、今となってはどうしてそこまで気を許してしまったんだろうと、過去の自分を恨めしく思う。
俺は男だ。
男だけど、巫女。
俺は、この国の王の婚外子だった。いわゆる愛人の息子。父さん…国王は、俺のことを認めてはくれなかったらしい。母さんは多くを語らなかったけれど、身重のまま追い出されたのは事実だ。
親子二人で街の一角で慎ましく暮らしていたけれど、ある日母さんが病気で死んでしまって、途方に暮れていたところに王の使者が来て…という、どこかの物語にありそうな境遇を辿ったわけで。
ひとつ違ったことは、俺を王族として迎えるのではなく、聖職に放り込んだということだ。曰く、俺が現れることによって王宮内が継承権争いで荒れるであろうこと、もともと望んでいない子どもであったから、今更受け入れがたいということ、それらが合わさって、仕方ないから城の奥深くに囲っておこうと思ったらしい。
いくらなんでも「巫女」は無理があるだろうと思ったが、俺は女顔だし、声もそこまで高くなかった。だから、周囲には隠し通すことができてしまっていた。
…殺されなかっただけ、良いのだろうか。
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