1_マフラーの持ち込みですか?ならこちらに記帳…じゃ駄目ですか?…駄目ですね(涙

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1_マフラーの持ち込みですか?ならこちらに記帳…じゃ駄目ですか?…駄目ですね(涙

「アッキー!落とし物持ってきたよ~。」  雪の降り注ぐ中、落とし物と思われるマフラーを片手に元気に駆け込んできたのは幼馴染の皆城静音という女性である。小・中・高・大と全て同じ学校に通っているので腐れ縁と言っても過言ではない!  みんな防寒具を着こんでモコモコしている中、花屋の制服の上にコートを引っかけただけの薄着の状態。例年より暖かいといっても雪が降ってるのに、その服って… 「さむっ!ちょっとストーブの前どいて、どいて!!」  自分の椅子(本当は来客用だけど)を俺とストーブの間に滑らせて割り込む…。出勤したてでまだ部屋があったまってない為、そうされると俺が寒いんだけど。 「寒いなら普通に外出用の服着てきなよ!マフラーを交番に持ってくるだけならそんなに急ぐことないだろ。」 「そうなんだけどね~。家の店の前に落ちててね~、ちょっと気になるんだよ~。」  フニャフニャと冬の家の暖房の前で和む猫のような顔をしながら答え始める。静音はフラワー皆城という花屋の看板娘で近所に限らず県外からも人気がある。そんな娘が外から中が覗ける交番でそんな顔を晒してネットに上げられないか冷や冷やする。  さすがにそこまでの責任は取らないと思いながら、静音の言ったことを調書に取っていく。朝に店の開店準備をしていたらマフラーが店の前に落ちていたとの事。見た感じ市販品ではなくて手作りである点とマフラーの端に編まれているのと… 「ほら、アッキーここ見て~」  静音に指さされた場所をよく見ていく。【Y・C Love K・T】と入っている。冬に独り身になんて物を持って来やがる!って持ってきた本人も同じだけど、僻んだ感じがない。女性だとそろそろ焦るものじゃないのか…? 「プレゼントって事?」 「そ、たぶんこの前のクリスマスプレゼントで付き合い始めの学生さんが渡したんじゃないかな~」 マフラーに自分の名前を入れるとしたら付き合いはじめくらいの可能性が高く、お金があって時間がないと既製品を買いがちと静音は考えているようだ。確かに一理ある。 「だから~、そんな若い子が困ってるとしたら~可哀そうだと思わない?」 「…静音さん、………もうすぐ年末ですよ?」 「了解!報酬は私との年末デートで受けてくれるって事ね!!」 「いや、いくら田舎でも忙しいって言ってるんだって!!できれば落とし物の形で、ヒっ!?」  静音が半眼でこちらを見ながら腕まくりをしてくる。これ以上いったら殴られる!  でも若年とはいえ自分の住んだ町を良くしようとなった警察官!暴力に屈するなんて!! 「年末に入り込む前に片付ければいいですね!頑張ります!!」  窓に敬礼した警官の姿が映っていたけれど、とてもいい敬礼だと思った。  ………静音さんが腕を振りかぶった瞬間に屈しました。ナントデモイッテクダサイ。  幼馴染による長年の教育の賜物ですね…。目の前にはそんなに私とデートしたいのと両手を頬にあててる静音さんがますが、突っ込むと火傷するのが目に見えてますので触らないようにします。  おかしいですね、昔を思い出したせいか一人称や一人での語り口まで変わってしまっています。 「じゃあ、今日の夜までにお互い【Y・C】と【K・T】のイニシャルに関係しそうな学生をお互いピックアップしておきましょ。」  静音さんからの持ち込み依頼があった時には夜に静音さんの部屋に行く事になっています。それまでに一人も思いつかないと殴られる可能性がありますので、必死に思い出しておきましょう。
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