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翼は地蔵をそのまま上半身と下半身にしておくか、学校脱走という罪を犯すかについて天秤にかけた。
舌うちをして、翼は小川を渡る細い橋を渡った。
「ほんと、おまえに関わるとロクなことがない」翼は瑞輝と一緒に地蔵の上半身を持ち上げた。瑞輝は確かに手を怪我していて、右の親指と人差し指から血が出ていた。
「それは最初に聞いてただろ」瑞輝が言う。「さんきゅー。きれいに割れちゃって、気の毒に」
「出席番号なんだからしょうがないだろう」
「今は違うクラスだろ」
「違うだろ、おまえが他の奴に冷たいから、何でも俺に伝言が来るんだろ。なんで俺が違うクラスのことをおまえに伝言しないといけないんだよ。おまえが他の奴をビビらせ過ぎなんだよ」
翼はスタスタ歩いていく瑞輝の後を追う。一応中学校に戻ってくれるようだ。
「勝手に怖がってんだからしょうがないだろ」
「イメチェンしようとは思わないのかよ」
「どうやって?」瑞輝が楽しそうに振り返る。翼は駐車場の砂利の上に立ち、敷地内にいることに安心する。瑞輝も翼についてちゃんと入って来た。
「もっと休み時間にみんなと遊ぶとかさ」
「あのさ、おまえ、鬼ヶ島にでも行って来たら?」
「はぁ?」翼は目を丸くした。
「鬼と遊んで来い。楽しいかどうか。今は笑ってても、ちょっとヘソを曲げたら食われるかもしれないって相手と遊んで楽しいかどうか考えりゃわかるだろ」
「鬼ヶ島に鬼なんかいないし」翼は唇を尖らせた。「おまえは鬼じゃないし」
「向こうはそう思ってんの」
「じゃ否定しろよ」
「角と牙がある奴がやってきて、鬼みたいだけど鬼じゃないよって言って信じるか?」
「角も牙もないだろ」翼はじっと瑞輝を見た。
瑞輝の言いたいことはわかる。髪と片目だけが琥珀色に光る。それから右腕についている螺旋状の痣。それに加えて、瑞輝の持っている空気感もみんなを引かせる。普通の中学生が持たないもの。水を打ったような静けさだ。瑞輝は時々、翼でさえ声をかけるのをためらうぐらい、静かにいるときがある。その静寂を破ると、斬り殺されそうな気がする。
「桃太郎ぐらいだろ、鬼と遊べるのは。桃から生まれた桃太郎」
瑞輝が翼のことを指差して言い、笑った。
「バカにしてんだろ」翼は瑞輝を睨んだ。
へへっと瑞輝が笑って、翼は瑞輝の頭をぽかりと殴った。そして翼も笑い出す。
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