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最初に出会った時、瑞輝に「その髪って染めてんの?」と聞いたら、瑞輝を知っている同じ小学校だった生徒たちが凍り付くのを感じた。アレ? 俺失言しちゃった?と思ったら、瑞輝は「地毛」と怒りもせずに答え、翼は相手が超不良じゃないことに安堵した。あいつに近寄ると呪われるからやめといたほうがいいぞと聞いたのは、その後だった。呪われるってそんなバカなと笑っていたら、次々に小学校時代の伝説が耳に入って来た。
あいつの前でモノを自慢したら必ず壊されるとか、あいつとケンカした後は必ず体調を崩すとか、あいつに睨まれたら必ず悪いことが起こるとか。先生を病気にしたこともあるし、交通事故に遭った奴もいる。あいつのじいちゃんも、あいつが殺したって噂だぜ。
何となくピンとこなかった翼は、掃除当番で仕方なく二人になったときに、そういうこと聞いたんだけどと言ってみた。静かに聞いていた瑞輝は肯定も否定もせず、怒りも笑い飛ばしもせず「そうか」と言っただけだった。「で?」と。
で、と言われて翼も困った。俺はどうしたいんだっけ。掃除当番をきっちりやる瑞輝は至って普通に見えた。ちょっともの静かではあるけど、それが授業妨害になるわけもなく、けんかや争いも、飛んでいって止めに入るわけでもないが、通りすがりに「邪魔だ」と威圧して仲裁していることはある。瑞輝に睨まれるとマズいから、何となくケンカはそこで終わる。
本当はいい奴なんじゃないのかなぁと翼は思った。瑞輝とはそれ以来、そのことについての話はしていない。今でも瑞輝から積極的に話しかけてくることはなく、翼もベタベタくっついたりはしていないが、仲がいいかと聞かれたら悪くないと答えるだろうとは思う。
桃太郎と鬼は、鬼ヶ島で仲良くしなかったとは思うけど。
「入間ぁ!」校舎の裏口のドアが開いて、体育教師がそれこそ鬼のような顔を突き出した。「職員室に来いって言っただろうが」
翼はキュッと身が引き締まるような気がしたが、瑞輝は笑顔のまま振り向いて「嫌だ」と言った。
先生、怒るぞ。と翼は怒鳴り声に身構えた。が。
「頼むよ、入間」神崎は懇願するように言った。
「嫌だ」瑞輝が即答する。
翼はポカンとして神崎と瑞輝を見比べた。どうやら二人の今の関係は、教師と生徒じゃないらしい。
「なんで。昨日と態度が違うだろうが」神崎はスリッパで外に出て来る。
「昨日で疲れた」
「ラーメン奢ってやったろ」
「先生の肩、硬いんだよ」
「だから頼んでるんだろうが。おまえのが一番効くんだよ」
「整骨院行けよ」
「効くかどうかわからん整骨院より、おまえの方が時間も金も無駄にならないだろ」
翼は首をかしげた。つまりは肩もみの相談か?
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