新3話 森の泉で

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 翌日のミシェーラ達は、マリッサからあることを教えてもらった。どうやら、ルーゼは、大抵の場合決まった場所にいるらしい。  八時頃には、近くの森の泉近くにいると聞かされたため、三人はそこに向かうことにしたのだ。 「それにしても、泉で何してるのかな?」  ピピィに聞かれたが、それはミシェーラも疑問に思っていたことである。  泉でやることなど、そうないはずだ。ミシェーラにもまったくわからない。 「さあ、どうなんだろう? 検討もつかないよね」 「ゴゴゴ?」  ゴゴもそれは分からないらしく、首を傾げていた。  そうこう言っている内に、森の泉が見えてきた。さらに、一人の青年も見えてくる。 「うん? 君達は……」  その人物は間違いなく、昨日三人を助けた人間であった。  言われた通り、ルーゼがいたのだ。 「こんにちは。ルーゼさん、でいいんでしょうか?」 「ああ、僕がルーゼだよ。君達は、昨日の三人組だね。僕に何かようかな?」 「あのですね。私達、昨日のお礼を言いたくて、助けて頂いてありがとうございます」 「うんうん、ありがとうね」 「ゴゴー」  お礼を言うと、ルーゼは驚いたような顔になる。  まるで、お礼を言われることを想定していなかったような感じだ。  その反応は、ミシェーラ達にとっても驚きの反応だった。 「まさか、それだけのために会いに来たのかい?」  そんな三人に対して、ルーゼはそう問い掛けてきた。  その質問の意図も、ミシェーラ達にはわからない。 「えっ? そうですけど……」 「そうだったのか、いや、昨日のことについては、僕も謝らなければいけないと思っていたのだけど……」 「謝る? どうしてですか?」 「昨日の僕の対応は、少々配慮不足だった。君達が怖がっているように見えたから、すぐに、あの場を離れてしまったけど、もっと丁寧に対応するべきだったよ。すまなかった」  ルーゼは、頭を下げて謝罪してくる。  その反応に、ミシェーラ達は困惑してしまう。  昨日から人間側からの謝罪が多すぎるが、そんなものはミシェーラ達が望むものではないのだ。 「あの、謝らないでください。ルーゼさんのおかげで、大事に至らなかったんですから……」 「そうだよ、ピピィ達は感謝しているんだもん」 「ゴゴー!」  三人の言葉で、ルーゼはゆっくりと顔を上げる。  どうやら、思いが通じたようだ。 「……ありがとう、そう言ってもらえると、助かるよ」 「いえ……あ、そういえば、自己紹介もまだでしたね。私、ミシェーラっていいます」 「ピピィは、ピピィだよ」 「ゴゴ」 「ああ、改めてルーゼだよ。よろしく」  四人は言葉を交わす。笑顔と笑顔の会話だ。  そこに、和やかな空気が流れる。 「そういえば、ルーゼは、どうして泉にいるの?」  すると、ピピィが疑問を話し始めた。  それは、ミシェーラやゴゴも気になっていたことだ。  その質問に対して、ルーゼは笑う。 「ああ、ここはお気に入りの場所でね。静かで心が落ち着くんだ」 「な、なるほど……」  ルーゼがここにいる理由は、意外にも単純なものだった。  だが、その言葉はとても理解できることだ。この場所は町の喧騒から離れ、とても静である。心を落ち着けるには、絶好の場所だ。 「ひょっとして、邪魔しちゃいましたか?」  ミシェーラは、少し気になってしまった。心を落ち着けているのなら、突然やってきた三人は邪魔なのではないかと。  その問い掛けると、ルーゼは優しく微笑んだ。それが答えであるようなものである。 「それは大丈夫さ。僕に用があると、訪ねてくることは時々あるからね。それと、敬語も使わなくていいよ。年も近いみたいだし」 「そうで……そうだね、よろしく」  ミシェーラは、ルーゼが本当に優しい人間であることを理解した。これからも仲良くしたいと思えるような人だ。ルーゼなら、人間の初めての友人になってくれるかもしれない。  しかし、ルーゼがどうして魔族に対して、こんなにも普通に接することができるのか、少しだけ気になってしまう。  それを聞くべきか、聞かぬべきか、悩んだミシェーラだったが、その考えが知りたくて仕方なかった。それがわかれば、今後の参考になるかもしれないからだ。 「あの、言いたくなかったら、いいんだけど、一つ聞いてもいい?」 「うん? まあ、質問を聞かないとわからないけど、どうぞ」 「あなたは、私達、魔族に嫌悪感とか抱いてないの?」 「ああ、そのことか」  ルーゼは、特に顔色を変えることはなかった。ルーゼにとって、この手の質問は聞かれても良いものなのだろう。 「別に、簡単なことなんだけどね。種族どうのこうのとか、僕にとってはどうでもいいことなんだ」 「どうでもいいこと?」 「うん、人間にもいい人と悪い人がいる。魔族もそうさ、いい魔族もいるし、悪い魔族もいる。種族単位で考えるなんて、無駄なことだと僕は思うよ」 「種族はどうでもいい……」  その考えは、初めて聞くものだった。ルーゼは種族ではなく、個人を見て決めるということなのだろう。  それは素晴らしい考えだと、ミシェーラは思った。そういう考えなら、魔族でも人間でも関係ない。 「その方がわかりやすいだろう?」 「……そうですね。いい考え方だと、思います」 「何だか難しい話だね……」 「ゴゴ?」  ピピィとゴゴは、この話がよくわかっていないようだ。だが、ミシェーラにとっては、この会話は意味あるものだった。  これからの人間と魔族との対話において、その考えはとても重要になってくるだろう。 「おっと、そろそろ、僕は行かなくちゃならない。また僕に用があったら、同じ時間にここに来てくれ。多分いると思うから。ああ、困ったことがあったら、町長の家に来てくれてもいいよ」 「あ、うん、今日はありがとうね」 「バイバイ! ルーゼ」 「ゴゴー!」  そう言って、ルーゼは駆けて行った。  残った三人は顔を見合わせて、笑う。 「ルーゼにお礼が言えてよかったね」 「うん、そうだね」 「ゴゴー」  三人も、宿舎に向かって歩き始めるのだった。
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