新3話 森の泉で

3/4
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
 話を聞いたマリッサは、三人に向かって頭を下げてきた。 「申し訳ないよ、本当に」 「そんな! マリッサさん、頭を上げてください」  マリッサの謝罪に、ミシェーラ達は困惑してしまう。  そもそも、マリッサは悪くないので、その謝罪は必要がないはずなのだ。 「いや、うちの町の馬鹿どもが、迷惑をかけたんだ。まず、あんた達の監督役である私が、頭を下げなきゃいけないのよ」 「マリッサさん……」 「このことは、町長から正式な謝罪があるだろし、そいつらにも直接頭を下げさせるよ」  やはり、大事になってしまったため、ミシェーラ達も萎縮してしまった。  このままでは、とても大きな問題になりかねない。 「マリッサさん、私達、全然大丈夫ですから、そんな大きな問題にしないで下さい」 「しかし、だね……」 「それに、その方達に頭を下げられても、私達何にもスッキリしません。権力で謝らせるなんて、違うと思うんです」 「うんうん、ミシェーラの言う通りだよ」 「ゴゴ……」  ミシェーラの言葉で、マリッサは頭を上げた。  その言葉が、響いてくれたのだろう。  マリッサは、ゆっくりと口を開く。 「あんた達……わかったよ。この件は穏便に済ませるように、町長に言っておくよ」 「ありがとうございます……あっ!」  そこで、ミシェーラは一つ思い出した。  自分達を助けてくれたルーゼと呼ばれた少年について、聞いておきたいのだ。お礼も言えてないので、気掛かりなのである。 「何だい?」 「その、私達、助けてくれた人にお礼も言えてなくて、是非、改めてお礼を言いたいんです」 「あんた達を助けたって、ルーゼでいいんだよね」 「はい、そう呼ばれていました」 「なるほどね、考えておくよ」  ミシェーラの言葉に、マリッサがゆっくりと頷く。これで、ルーゼと会うこともできるだろう。  この際なので、ルーゼがどんな人なのか聞いてみたいと、ミシェーラは思った。  魔族の自分達を助けてくれたルーゼの人柄が、知りたくて仕方ないのだ。 「ルーゼさんって、どんな人なんですか?」 「うん? そうだね……」  そう聞くと、マリッサはにっこりと笑った。  それだけで、ルーゼがどのような人物かわかる。マリッサが笑う程、いい人物であるということだ。 「とってもいい子だよ」 「いい子……ですか?」 「まあね、訳あって町長の家に住んでいるんだけど、町のことも色々気にかけてくれてるし、困っている人がいたら助けるし、そんな優しい子だよ」 「そう……なんですね」  いい人であるにしても、自分達魔族にも差別なく接するとは珍しいと、ミシェーラは思った。ただ、マリッサもそうであるので、そういう人もまだ町にはいるのと理解する。  年も自分と近かそうだったことから、始めての人間の友人ができるかもしれない。そう思うと、ミシェーラは心が躍った。ずっと望んでいた、人間の友人への期待は、それ程大きいものなのだ。 「とりあえず、難しいことは後にして、ご飯にしようか。すぐ作るから、座って待っていな」  ミシェーラがそう考えていると、マリッサが声をかけた。  そこで、三人は笑顔になる。 「はい、ありがとうございます」 「わーい、ご飯だ!」 「ゴゴ―」  人間の食事は、彼女達魔族にとって、楽しみの一つだ。  魔族の食事は、基本的にあまり複雑な調理はしないし、そもそも食材が違う。人間の食材は彩りに溢れており、見た目からして食欲をそそる。  三人は夕食を食べに、食堂に向かうのだった。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!