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話を聞いたマリッサは、三人に向かって頭を下げてきた。
「申し訳ないよ、本当に」
「そんな! マリッサさん、頭を上げてください」
マリッサの謝罪に、ミシェーラ達は困惑してしまう。
そもそも、マリッサは悪くないので、その謝罪は必要がないはずなのだ。
「いや、うちの町の馬鹿どもが、迷惑をかけたんだ。まず、あんた達の監督役である私が、頭を下げなきゃいけないのよ」
「マリッサさん……」
「このことは、町長から正式な謝罪があるだろし、そいつらにも直接頭を下げさせるよ」
やはり、大事になってしまったため、ミシェーラ達も萎縮してしまった。
このままでは、とても大きな問題になりかねない。
「マリッサさん、私達、全然大丈夫ですから、そんな大きな問題にしないで下さい」
「しかし、だね……」
「それに、その方達に頭を下げられても、私達何にもスッキリしません。権力で謝らせるなんて、違うと思うんです」
「うんうん、ミシェーラの言う通りだよ」
「ゴゴ……」
ミシェーラの言葉で、マリッサは頭を上げた。
その言葉が、響いてくれたのだろう。
マリッサは、ゆっくりと口を開く。
「あんた達……わかったよ。この件は穏便に済ませるように、町長に言っておくよ」
「ありがとうございます……あっ!」
そこで、ミシェーラは一つ思い出した。
自分達を助けてくれたルーゼと呼ばれた少年について、聞いておきたいのだ。お礼も言えてないので、気掛かりなのである。
「何だい?」
「その、私達、助けてくれた人にお礼も言えてなくて、是非、改めてお礼を言いたいんです」
「あんた達を助けたって、ルーゼでいいんだよね」
「はい、そう呼ばれていました」
「なるほどね、考えておくよ」
ミシェーラの言葉に、マリッサがゆっくりと頷く。これで、ルーゼと会うこともできるだろう。
この際なので、ルーゼがどんな人なのか聞いてみたいと、ミシェーラは思った。
魔族の自分達を助けてくれたルーゼの人柄が、知りたくて仕方ないのだ。
「ルーゼさんって、どんな人なんですか?」
「うん? そうだね……」
そう聞くと、マリッサはにっこりと笑った。
それだけで、ルーゼがどのような人物かわかる。マリッサが笑う程、いい人物であるということだ。
「とってもいい子だよ」
「いい子……ですか?」
「まあね、訳あって町長の家に住んでいるんだけど、町のことも色々気にかけてくれてるし、困っている人がいたら助けるし、そんな優しい子だよ」
「そう……なんですね」
いい人であるにしても、自分達魔族にも差別なく接するとは珍しいと、ミシェーラは思った。ただ、マリッサもそうであるので、そういう人もまだ町にはいるのと理解する。
年も自分と近かそうだったことから、始めての人間の友人ができるかもしれない。そう思うと、ミシェーラは心が躍った。ずっと望んでいた、人間の友人への期待は、それ程大きいものなのだ。
「とりあえず、難しいことは後にして、ご飯にしようか。すぐ作るから、座って待っていな」
ミシェーラがそう考えていると、マリッサが声をかけた。
そこで、三人は笑顔になる。
「はい、ありがとうございます」
「わーい、ご飯だ!」
「ゴゴ―」
人間の食事は、彼女達魔族にとって、楽しみの一つだ。
魔族の食事は、基本的にあまり複雑な調理はしないし、そもそも食材が違う。人間の食材は彩りに溢れており、見た目からして食欲をそそる。
三人は夕食を食べに、食堂に向かうのだった。
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