新1話 二人の出会い

3/3
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
 勇者と魔王との和平から、数か月が経とうとしていた。そんな中、辺境の町ロッセアでは、友好の証明として、異文化交流が行われていた。  魔族が人間の町に住むことによって、お互いの理解を深めることが目的だ。この異文化交流には、数名の魔族が参加していた。  悪魔の少女ミシェーラも、そんな魔族の一人である。 「うーん」  ミシェーラは比較的好奇心が強く、戦いとは離れた場所にいたため、人間への抵抗はあまりなかった。むしろ、新たな友人ができることを、楽しみにしていたくらいである。  しかし、彼女の期待は裏切られることになった。人間側は彼女を含む魔族と、積極的に関わろうとしなかったのだ。 「はあー」  ミシェーラは、薄い紫色の肌に、頭には角、背中には翼、細長い尻尾も生えており、人間とはまったく違う姿をしている。  悪魔としては、一般的な姿だ。そのことが、人間達に恐怖を与えているらしい。人間達の中には、悪魔に襲われた者もいるので、それも無理はないだろう。  現実を知ったミシェーラだが、それでも友好的に接すれば、きっと心を開いてくれるはずであると信じていた。諦めなければ報われると、彼女は信じているのだ。 「ゴゴ……?」 「ミシェーラ、大丈夫?」  そんなことを思いながら、ミシェーラは買い出しを行っていた。隣には、同じく異文化交流に参加した、ゴーレムのゴゴ、ハーピィのピピィが並んでいる。  ゴーレムは全身が石でできており、頑丈な体と強い力が特徴だ。ハーピィは、人の体に、腕が翼、足が鳥のようになっている生物である。  二人とは、この支援活動で知り合った。この町の人々と仲良くなれなかったミシェーラにとって、このような存在は支えなのである。 「う、うん。大丈夫だよ、私、そんなに変だったかな?」 「うん、ため息してたし」 「ゴゴ……」 「疲れているんだよね。帰って、しっかり休まないとね」  この町に来てから、色々と疲れているのは確かだった。上手くいかない日々が、ミシェーラを精神的に披露させているのだ。 「うん、ありがとね、ピピィ、ゴゴ」 「ゴゴー」 「ううん、大丈夫だよ」  しかし、だからといって二人に心配をかけるのはよくない。そう思ったミシェーラは、元気を出すことにした。  から元気でも、落ち込んでいるよりはマシなはずなのだ。 「うん?」 「どうしたの? ミシェーラ」  そんな話をしながら歩いていると、前方から、二人の人間がこちらに向かってくるのが見えた。  人間が自分達に近寄ってくるのは、珍しいことだ。見たところ、穏やかな雰囲気でもない。ミシェーラは、嫌な予感がしてきた。 「おい、お前ら!」  そんなことを考えていると、男の一人が顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。足元がおぼつかないのと、酒瓶を持っていることから、酔っ払っているように思える。  こういうのは、相手にしないのが一番だろう。 「な、何……?」  しかし、ピピィが答えてしまったため、無視する訳にはいかなくなってしまった。  反応があったためか、男達は調子に乗り始める。 「お前ら、魔族が、人間の領分に入ってくるんじゃねえよ!」 「そうだ、そうだ、目障りなんだよお前ら!」  男達はピピィを睨め付け、色々と言い始めた。  この中で一番大人しそうなのは、ピピィだ。そのため、標的にされたのだろう。  止めなければならない。そう思ったミシェーラは、ピピィの前に出る。それに続いて、ゴゴも出てきた。 「やめて!」 「ゴゴ!」 「何だ! くそ!」 「ちっ! 化け物どもが!」  すると、男達は少し怯んだ。顔などは、普通の人間と変わらないピピィよりも、ミシェーラやゴゴは異形らしい。男達にとっては、恐怖の対象なのだろう。  姿形で、相手を怯ませるのは、不本意ではあったが仕方がなかった。これで引いてくれれば、面倒事に巻き込まれずに済む。  そう思ったミシェーラだったが、男達は引かなかった。 「鬱陶しいんだよ! 化け物!」  男の一人が、酒瓶を持った腕を振り上げてきた。標的は、ミシェーラだ。 「きゃあ!」 「ゴゴ……!」 「ミシェーラ!」  咄嗟のことであり、ミシェーラは動けなかった。  悪魔であるが、ミシェーラはそこまで強くない。酒瓶がぶつかれば、怪我をするのは確実だろう。 「いてえ!」  しかし、酒瓶がミシェーラに届くことはなかった。  ミシェーラが目を開けると、酒瓶は地面に落ちて砕けていた。その隣には果物が転がっている。  男達が後ろを見ていたため、ミシェーラもそこに目を向ける。するとと、一人の人間が立っていた。  幼さの残る中性的な整った顔立ちで、肩にかかるほどの金髪が伸びている。恐らくは男性だろう。見たところ、彼が果物を男の腕に投げつけたらしい。 「ルーゼ! 何しやがる」 「……何しやがるじゃないよ」  ルーゼと呼ばれた青年は、低い声で言葉を放ち、二人を睨みつけた。  その威圧感は、中々のものだ。 「いい大人が昼間から酔っ払って、みっともない」 「てめぇ! 町長の家の居候のくせに偉そうに!」  果物を投げつけられた男は、怒っていた。だが、もう一人の男は違った。 「お、おい、やめとうこうぜ……」  どうやら、ルーゼの登場で、少し冷静になったようだ。  その様子に、ミシェーラは少しだけほっとする。これで、相手が引いてくれれば、ありがたい。 「あいつは……まずいって」 「ちっ! 仕方ねえか……」  ミシェーラの願い通り、二人は去っていった。ミシェーラの心に、やっと本当の安堵が訪れる。他の二人も、同じだろう。 「大丈夫だったかな?」  そんな三人の前に、ルーゼがやってきた。  先程までとは打って変わって、優しい口調で語りかけてきた。これが、本来の彼なのだろう。 「あ、はい」 「ゴゴ」 「うん、うん」  三人は、とりあえず頷いた。その様子を見たルーゼは笑顔になる。 「それなら、よかった。ごめんね。彼等には、よく言っておくから。それじゃあ、気を付けてね」    そして、それだけ言って、三人の元を去っていった。  しばらく沈黙した後、ピピィがゆっくりと口を開く。 「そういえば……」 「うん? どうしたの? ピピィ」 「ゴゴ?」 「お礼……言ってないよね」 「あ!」 「ゴ!」  大事なことを言い忘れたことを、三人は後悔するのだった。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!