第1話 ホームセンターONE

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第1話 ホームセンターONE

 殺らなきゃ――殺られる――  最近地元で話題の連続殺人犯……この男がおそらくは、それだ。  もう日を跨ごうかという時間の暗い帰り道で、男子大学生のシュウゴはその男と遭遇した。後ろから何者かが走って近づいてくる音がして、振り返ると包丁を手に持ちマスクと眼鏡を顔に付けた男が迫っていた。  咄嗟に身を縮めて包丁を躱し、引くよりも立ち向かったほうが良さそうだと判断したシュウゴはそのまま男の腹へ頭突きタックルをした。  黒いジャンパーを着た包丁男は衝撃で手に持っていた包丁を落としたが、代わりにシュウゴの服を両手で掴み離さなかった。  二人は人通りの少ない道の路上で逃げる逃がさないの取っ組み合いになった。シュウゴはどうにか男の手を振り払らおうと、思い切り体を捻ってみたり、逆に相手を付き飛ばそうとしたが力は僅かに男のほうが上なようで逃げるのは叶わなかった。 「誰か――」  助けを呼ぼうとしたが取っ組み合いに精一杯で大きな声も出せない。その中でシュウゴの隙を突いた男は後ろへ引こうとするシュウゴの足を引っかけて倒し、覆いかぶさった。  急いでポケットから予備のナイフでも取り出そうかという男――  てめえ、この野郎……  男は気付いてないようだが、倒れたシュウゴの手元に先程男が落とした包丁があった。男が攻撃を始めるよりもこちらのほうが早い、横っ腹じゃ甘いかもしれない。狙うなら……首っ。  殺してやると決めたその瞬間、目の前が真っ暗になった。心臓に痛みがして、息ができない。  殺された。反射的にそう思った。自分よりも早く男が自分を刺したんだ。  しかし、胸の痛みから解放されて、目を開けると全く違う場所にいた。背中をでこぼこ押していたアスファルトの感触は無くなり真っ平な床に寝転んでいる。  明るい照明が眩しくて起き上がると、目の前にはトンカチがあった。 「ホームセンターONEにご来店くださって誠にありがとうございます。本日は1人のお客様が息絶えれば閉店となります」
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