バレンタインの日に。

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 恋人から。  どうやら自分のことを好きらしい子から。  友達から。  身内から。  プレゼントって、皆から貰ってる。  でも、私はあまり返せていないなぁ。  子どもだから。  そんな理由で、貰うだけなの?    そんなのダメじゃない?  私は、しっかりお礼がしたいな。  今は冬だから。  「コートとか、上着とか。でも、好みが分からないなぁ。手作りの方が、喜んでくれるかな」  たくさんたくさん、悩んだよ。  「あ、そうだ。マフラーにしよう!」    きっと、喜んでくれる。  その様子を思い浮かべて、思わずニヤニヤしちゃったよ。  私は、好きな人にプレゼントを贈る。  どうか、受け取って・・・。  ーーーーー 「ねえねえ、もうすぐバレンタインだね」 「ねえー、チョコあげる?」 そんな会話が繰り広げられているのは、星空中学校。 「綺麗な名前だな」と、いつも思う。 星空を見ると、この学校を思い出す。 学校には、大好きな友達がいて、優しい先生がいて。 勉強する場所なのに、遊びにいってるかのように楽しいんだ。 でも、嫌なこともあるんだよ。  ーー好きな人と話せないこと。 話そうと思えば話せるのかもしれないけれど、私にはそんな勇気はなくて。 彼の周りには、いつも女の子がいっぱい。 みんなキラキラしていて、私とはかけ離れて存在。 休み時間は、上級生や違うクラスの子で溢れている。 彼はやっぱりすごい。 「ねぇ、華は誰かに渡す?」 その声で、一気に現実に戻される。 「ふぇ、何を!?」 私は全く聞いてなかった。 「もう、また一人で妄想広げて!」 友達の一人の千夏がそんなことを言う。 「な、妄想なんて広げてないし!」 慌てて否定するも、 「へぇー、そうなんだぁー?」 ニヤニヤとするばかり。 「ほんとかなぁ?」 周りの子にも、ツンツンとつつかれる。 少々恥ずかしいけれど、こんな会話もすっごく楽しいんだ。 皆が大好きだから! 「で、誰にあげるの?」 「えっと、皆?」 「えー、つまんなーい、好きな人とかいないのぉ?」 「そうそう、林君とか」 『林君』その言葉にドキッとする。 そう、彼こそが私の好きな人。 でも、 「そりゃかっこいいとは思うけどさ、近寄りがたい存在だよ~。憧れって言うかぁ?」 私は皆に本当のことを言えない。 私のような不細工で性格も皆みたいにに良くない子が、彼を好きになる資格なんてないよ。 そう、思っているから。 「へぇ?まあ、いいけど。好きな人出来たら、教えてよ?」 「うん、もちろん」 嘘はダメ。 胸が痛い。 悲しくなる。 でも、私は言えなかった。 ーーーーー ついに、バレンタインの日が来てしまった。 私はいつも通り、皆に友チョコを作ってきた。 我ながら、美味しくできたんじゃないかなぁ、と思っている。 皆が喜んでくれるといいな。 「おっはよーう!」 そう挨拶すると、 「おはよう!」 「今日もかわいい~!」 「友チョコをチョーダイ!」 「はい、チョコ~!」 と、皆が話しかけてくれる。 あー、嬉しいなぁ。 「はい、どうぞ」 私は皆にチョコを渡していく。 はい、はい、はい、と皆にチョコをあげていると、何故か一つ余った。 間違えて作りすぎたのかな。 え、でも、昨日ちゃんと全てのチョコにラッピングをして、名前を書いた付箋を張ったはず・・・。 付箋にはなんて書いてあるの? 『林君』 「え?」 思わず、声をあげてしまった。 「華、どうしたの?」 はっ、今これを見せれば、絶対にからかわれるっ! 「いや、特に何もないよ、大丈夫」 「うっそだぁー?」 茄菜が、そう言ってさっきまで皆のチョコが入っていた袋の中を覗く。 「・・・まじ?」 茄菜はそう言った。 「いや、入れた記憶ないんだよっ」 「ほんとか~?じゃあ、なんではいってるのよ」 「・・・分からない」 本当に分からない。 無意識? え、私って、そんなに林くんの事が好きなの? 「好きなの?」 茄菜が、耳打ちしてくる。 「分からない・・・」 私は、またそう言った。 「へぇー、まぁ、後で聞かせてね~」 とりあえずこれですんだのだが、このチョコはどうすればいいんだろう・・・。 ーーーーー チョコの事が分からないまま、放課後になってしまった。 どうせ作ったのなら渡そうか。 なんて考えてしまう。 「いやいや、渡せるわけないじゃん!」 うん、その通りだよ。 はっとして、周りを見る。 良かった、誰もいない。 いきなり叫んだら、私おもいっきり変人だからなぁ。 ガラッ。 教室のドアが、いきなり開いた。 「だ、誰?」 私はパッとドアを見る。 「あぁ、橘さん。ごめんね、驚かせちゃった?」 「い、いえいえ!滅相もございません!」 そこにいたのは、なんとビックリ。 本物の林君! ドキドキドキドキ。 心臓の音がうるさい。 鳴り止んでよ。 「橘さんは、どうしてここに?」 優しい口調、優しい笑顔。 意識しておかないと、見惚れてしまいそう。 「橘さん?」 あ、駄目だ、既に見惚れてしまった。 「ご、ごめんなさい!林君がかっこよすぎて、思わず見惚れてしまいました!」 「え?」 ヤバイ。 私は何を口走っているのだろう。 そんなこと言ったら、引くよね。 「あぁ、えっと、これは・・・」 これは・・・? 何て言えばいいのー! どうしよう。 「橘さん、それ、本当?」 「え?」 「本当に思ってる?」 え、ちょ、さっきと纏う風陰気が全く違う! 「あー、えっとー、」 これは、正直に答えるべき? ・・・う、なんか、全てを見透かすような瞳をしてる。 スー、ハー、スー、ハー。 「は、はい、本当に思ってます!あの、いつも見てて、あ、なんかキモいですね、すみません!でも、その、かっこよくて、喋りたいな、とかいつも思ってて、今も、喋れているのかがすごく嬉しくて、その、好きです!」 ・・・ん? 私今、なんて言った? シーン。 気まずい・・・。 どうしよ、私のせいだよね。 「あ、あの、えっと、いきなりこんなこと言われても困るだけですよね・・・。すみません!」 私はペコリと謝り、その場を去ろうとする。 でも、 「待って、橘さん!」 ガシッと二の腕を掴まれて、逃げれなくなってしまった。 は、は、林君が私に触れている! 心臓のバクバクが止まらないよー! 「あの、橘さん、その、俺も、その、橘さんのことが、その・・・。好きなんだ!」 ・・・え? 「空耳・・・?」 ポツリと呟く私。 「空耳なんかじゃないよ、本当だよ!」 林君はそう言う。 でも、あり得ないよ! 喋ったこともないのに、目が合ったことすら無いんじゃ・・・。 「好きだよ、ずっと、俺も話したかった」 私の疑問をわかっているかのように、そんなことを言ってくる。 「あ、あ、え、あ・・・」 な、何を言えばいいの・・・。 「そんな、緊張しないで」 「あ、はい」 「ねぇ、付き合って、くれる?」 何その、少しだけ上目遣い! それで、どうやって、断るって言うのさ・・・。 「も、も、もももももちろんです!」 私は即返事。 ぱあああああ! と、林君の表情が明るくなって。 気付けば、林君の胸の中にいた。 「っ!あの、は、恥ずかしいです・・・」 私の顔は、きっとトマトより赤いだろう。 嬉しい、恥ずかしい、でもやっぱり嬉しい! そんな思いが駆け巡る。 「夢じゃないからね」 林君は、そう言った。 ーーーーー これは、五年前のことだ。 今でも、あのときのことを思い出すだけで、真っ赤になる。 私たちは今も、お付き合いしています。 五年も付き合ってるのに、私は林君に慣れません! 無理だよぉ、こんなかっこいい人のとなりに立つなんてー。 うぅー。 でも、毎日が楽しすぎる! 充実してる。 ずっと、このままでいられますように。 ーーーーー 今年も、バレンタインが近付いてきた。 林君は、チョコは要らないらしい。 代わりに、長く使えるものが欲しいと言っていた。 何にしよう。 何が喜ぶだろう。 私は何日も悩んだ。 「あ、そうだ。マフラーにしよう!」 私は悩んで悩んで、そう決める。 喜んでもらうために、丁寧に丁寧に編んでいく。 喜ぶ顔を思い浮かべる。 明るい君なら、抱きついてくれるでしょ? 優しい君なら、お礼をしたいと言うでしょ? 素直な君なら、ありがとうといってくれるでしょ? 様々な彼を思い浮かべているうちに、あっという間に編み終わる。 「大好き」という、この思い、届いてね。 ーーーーー バレンタイン当日。私は彼の家に向かう。 軽い足取りで、スキップをする。 見た目はもう大人の私がスキップなんてしていたから、道行く人に変な目で見られてしまう。 でも、そんなの気にならない! だって、これから林君に会えるんだもん! あぁ、楽しみ! 待っててね~、今いっくよ~! エヘヘッ! ーーーーー ピンポーン。 インターホンが、鳴り響く うーん、出ないなぁ。 寝てたりして! おっちょこちょいな林君なら、有り得るかも。 そう考えて、私はクスクス笑う。 ピンポーン。 もう一度鳴らす。 「あれ、なんで出ないんだろう」 まさか、いない? そんなわけ無いよね。 一昨日、LIMEしたし。 ガチャッ! 「あ、ドアが開いた。失礼しまーす」 小さな声で、私は言う。 これって、不法侵入じゃないよね? そう不安になるけれど、まあいっか。 トントンと階段を上がり、林君の部屋に行く。 「林くーん」 部屋に入って、私は息を飲んだ。 だって、林君は、血を出して倒れていたから・・・。 「林君!」 私は急いで救急車を呼ぶ。 救急車はすぐに来た。 すぐに手術が必要なんだそうだ。 「お願い、お願いします!神様・・・」 私にできることは、林君の家族に連絡することと、祈ることだけ。 お願い・・・。 ーーーーー 手術が終わった。 「医師さん!どうなったんですか!?」 私は詰め寄る。 そしたら、医師は、 「すまない、彼は、もう助からない・・・」 そう告げて。 ・・・え? 目の前が真っ暗になった。 なんで? 助からないの? 彼は、いつも元気だったよ? なんで、こんな目に遭わなきゃいけないの? ねえ、ねえ、ねえ・・・? 医者に何度も聞く。 でも、帰ってくるのは同じ答えだけ。 「華さん、ごめんなさい・・・」 家族も謝ってくる。 謝る必要なんて無いですよ。 そう言いたいけれど、言葉が出てこなかった。 ーーーーー ごめんね、林君。 もっとそばにいたかったよ。 助けてあげたかったよ。 結局私は、あなたに何も返せてないね。 いつも、幸せをたくさんもらって。 デートする度に、プレゼントをくれて。 ねえ、あなたは私といれて幸せだった? 私は、最高の時間だったよ・・・。 ずっと、ずっと、忘れられない。 ねぇ、また、会えるかな・・・。 きっと、会えるよね。 そのときはね、笑顔でね、マフラーをね、あげたいな・・・。 あなたは笑って、首に巻いてくれるよね。 楽しみにしててね・・・。 ーーーーー 病院から出た私は、林君の部屋に行った。 ベットにゴロンと転んで、枕を抱き締めた。 ちょっとでも、林君を感じたくて。 林君の香りを吸いたくて。 そこで、何時間も泣いた。 林君の家族は、それを温かく見守ってくれて。 やっぱり、家族はにてるんだね。 優しいところ、笑顔がいいところ、かっこいいところ、背が高いところ、他人思いなところ・・・。 林君、大好きだよ・・・。 ーーーーー 後日、私は林君のお母さんに呼ばれて、家を訪ねた。 「呼び出してごめんね」 と、お母さんは言う。 「いえいえ、ここに来ると、林君を思い出して幸せな気分になれるので」 「そう言ってくれると、助かるわ」 お母さんは、そう言って微笑む。 なんだか痩せた気がする・・・。 でも、それは私も同じ。 あんまり食べてないな。 「それで、ご用件は・・・」 ここにいたら泣きそう。 幸せだけど、やっぱり耐えられない。 そう感じた私は、早く帰ろうと、そう尋ねる。 「あ、ごめんね。そのね、敦の部屋を片付けていたらね、こんなものが出てきて」 そう言ってお母さんが私に見せてきたのは、マフラー。 少しだけ曲がっていて、林君が編んだことはすぐにわかった。 「・・・これは?」 私は尋ねる。 「敦ねぇ、バレンタインが近くなった日、いきなり編み物を教えて欲しいなんていってきてね。なんで、って聞いたら華さんにプレゼントしたいから、って言って」 なんで・・・。 「作れたのかな、って気になってたんだけど、敦ったら、ベットの下に袋に入れて隠してたのよ・・・」 林君のことを思い出したのか、お母さんは少し涙目になる。 そんな顔されたら、そんなこと言われたら、私だって我慢できないよ・・・。 「そ、ぞれでね、せっがぐ華ざんのためにつくっだんだから、もっていてぼしくて」 鼻水が出るのをおさえながら、お母さんは言う。 やめて、もう泣かないと決めたのに。 「泣きたいときは、泣いていいんだよ、って、敦はよく言っていたわ・・・」 それを聞いて、私は涙が止まらなくなる。 「う、うぇ、うわぁーん!」 私たちはそのあと子どもみたいに泣いて、泣いて、泣いて・・・。 スッキリして、家に帰った。 ーーーーー あれから十年もたった。 私はまだ、あの時を引きずっている。 ろくに彼氏も作らず、仕事に明け暮れる日々。 でも、これでいいと勝手に思ってる。 「明日はバレンタイン!」 そう言いながらチョコを食べる想像をする私の首には、林君が編んでくれたマフラー。 「なんで、そんなのつけてるの?」 友達にそういわれると、ムカッとする。 でも、林君に見守られている気がして、優しい心になれる。 私たちはまた、きっといつか会える。 その日まで、あなたのことは忘れないよ。 大好きだよ、林君・・・!
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