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瑞輝はヘリが飛んで行くのを見送って、その向こうの月を見た。満月だ。白い光に瑞輝はじっと目をこらした。ツクヨミの話を思い出す。月は薄っぺらい紙みたいなもんじゃない。星と星の間には空間があり、太陽を中心に宇宙風ってもんもある。嵐もある。真空の空間なのに。
あ…そうか。瑞輝は両手を見た。俺がいつも溺れているのは水の中じゃない。宙だ。
「瑞輝」伊藤が呼ぶ。
瑞輝は振り返り、歩き出す。
「持って行け」伊藤は布に包んだ刀を出す。「これは代々、龍気の統一や分散に使われてきた。役に立つ」
「いらない」瑞輝は通り過ぎようとして、伊藤に腕を掴まれた。
「殺すぞ。持って行け」
瑞輝は伊藤に迫られて立ち止まった。伊藤は瑞輝を見下ろし、刀を押し付ける。
「必要がなくても持って行け。保険だと思ってさ」
「向こうは持ってないでしょ。そんな…」
「フェアじゃない、か? まだそんな甘っちょろいこと言ってんのか。言ってるだろ、もしおまえが失敗したら」伊藤は瑞輝にぐいと迫った。瑞輝が一歩下がる。坊や、精神的に負けてるぞ。そんなんじゃダメだ。
「嫌だ」瑞輝は後ずさりしながら言った。「日本がどうなろうと知るか。世界も知るか。俺には関係ねぇ」
「関係あるんだよ!」伊藤は怒鳴ったが、瑞輝に手を出すのはやめておく。不意打ちじゃないと勝てないのはわかっている。
「弟を助ける。そんだけでいい」
「おまえは底なしのバカだな」誰だ、こいつに黄龍を預けた奴は。入間のクソジジイめ。あんたの目利きが間違ってたんじゃないのか。伊藤は刀を握った。
「いいだろう。じゃぁ俺もついていく。必要があれば俺が斬る」
瑞輝は首を振った。「斬らせない。必要ない」
「それはおまえが決めるんじゃない。俺が決める」
「だったら来るな」瑞輝は伊藤を突き飛ばした。伊藤は思ったよりも強い力で飛ばされてひっくり返る。起き上がろうとしたが、押された胸が痛んで動けない。息が詰まる。
くそぉ。伊藤は逃げるように走って行く瑞輝を睨んだ。ここで使うなよ。
電話が鳴る。伊藤は地面に倒れたまま、ポケットを探った。
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