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「困った子だなぁ。ちょっとは自分のルーツに関心持ってよ。そんな変な力があるんだから、普通はもしかしてこれは選ばれた血筋なのでは?とか思わない?」伊藤はため息をついて言った。
「思いません」瑞輝は小さく答えた。だって俺の両親は、俺のこの変な外見とかにびっくりして捨てたわけだろう。だったら血筋じゃないのは明白だ。
「思ってよぉ」伊藤は笑う。「中森家、どんどん遡ると、ここにたどり着くわけ」
伊藤は家系図の一番上にある「永世」という名をペンで示した。でも途中は雑に省かれている。どうやら筆跡から見て、伊藤が適当に写したものらしい。
「この永世家、古来より龍気を扱って来た家なんだよ」
瑞輝は伊藤をじっと見た。冗談言ってんじゃないのか、この人。
「君が信じようと信じまいとどうでもいいけどね。大陸から渡って来た人たちみたいだよ。向こうにいた頃のルーツはもうわからないんだけど、元は皇帝なんかに仕えてたんじゃないかな。ほら日本でも陰陽術師は朝廷に仕えてたじゃない。そんな感じで」
瑞輝はそういう辺りのことは全くわからなかった。伊藤が言っている半分もわからない。伊藤はそれを察して大きなため息をつく。「どこまで砕いて話さないといけないのかな、君は。自分でもちょっとは勉強してくれない?」
「すみません」瑞輝は仕方なく謝った。でも誰も教えてくれなかったんだから、しょうがないだろうとも思う。
「煙草吸っていい?」伊藤はそう言って、やっぱり瑞輝が答える前に煙草をくわえた。火をつけて煙を吐き出す。はぁ、落ち着く。
「たぶん本筋じゃなくて、鍛冶屋とか商人とかで日本に来たんだと思うよ。そのときに同時に龍気信仰も運んで来た。日本の元の信仰や仏教、神道と合わさって、長い歴史の間に龍気信仰は今の形になっていったんだよ」
「今の形って…」聞いてもいいのかなと思いながらも、瑞輝は口を挟んだ。伊藤に睨まれるかと思ったが、睨まれなかった。
「今の形は、黄龍君が信仰母体。つまり君ね。まだ覚醒してから二年だから、正式な黄龍と認められてないけど、弟君を消したら、あと二、三年で認められるはずだから、そのときは君が宗主」
また出て来た。弟を消すとか何とか。瑞輝は小さく顔をしかめた。
「じゃぁ宗主って今は別の人がやってるんですか?」
「違うんだな」伊藤はウインクしそうな顔で嬉しそうに言った。「君は黄龍としては初代なんだよ。今までは黄龍と龍気を扱う術者ってのは、まったく別ものだったわけ。四百年ぐらい前にそれが合体しちゃう事件があってね、それ以来、ずっと黄龍は封印されてきたんだよ。元々、永世家ってのは術者の家系。龍気を扱える才能っていうよりは、口伝で技術が伝えられて来たってわけ。昔の話だから、口伝ってのも確かだったんだろうけどね、今じゃ記録しようって話にはなってるよ。記録できるものなのかどうか不明だけど」
「え…よく…」
「わからないよね、今から説明する」伊藤は瑞輝の言葉を制した。「ここ」と伊藤は紙の真ん中にペンを置いた。空白の中にぽつりと書き込みがあり、「兄」「弟」「妹」と書いてある。
「龍気ってのは龍の力。君が持っているような力。元はそれは龍が持ってた。人と龍は別の存在だ。宇宙を司る龍の力の片鱗を人が少し借りてたんだよ。その交渉役が龍気使いの術者だったと言われてる。そしてそれが永世家。ここまではわかる?」
瑞輝はとりあえずうなずいた。質問はたくさんあるが胸に収めておく。
「記録によると四百年ぐらい前、永世家のうちに強い力を持った人物が出た。何でもそうだ。長い間トマトを育ててたら、突然でかいのが出来たり、妙に小さいのが出来たりする。それと似たようなものだ。術者にも強いのもいれば弱い者もいた。その突発的な存在が、この「兄」。彼は龍気をもっと集めようとした。当然、龍気を集めれば実質の支配力も強まる。しかし同時に龍の怒りも受ける。失敗すれば龍はこの世を滅ぼすと言われていたから、今までは身の程をわきまえ、龍のおこぼれで満足してたんだよ。彼は満足できずに力を集めた。そして彼はそれなりに強かった。ある程度は力を集めることに成功した。しかし龍が人に負けるわけがない。龍は彼の意志を飲み込み、彼の野望を内包しながら、反乱を犯した人という存在に対しての怒りを爆発させた。ここまでOK?」
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