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瑞輝は息をついた。「ゲームみたいだけど、まぁ、話はわかります」
伊藤は笑った。「ゲームじゃないよぉ、君のルーツだよぉ。真面目に聞かないと後悔するよ」
「聞いてます」瑞輝は姿勢を正した。聞いてる。リアリティがないだけ。翼たちが喋ってるテレビゲームや漫画の話みたいだなと思うだけ。
「で、次にこの「弟」だ。弟は術者だ。兄の引き起こした龍の乱れを鎮めようとした。でも一旦暴れ出した龍は手がつけられない。いろいろ手は尽くしたが、最終的には協力者と共に、自分の身を捨てる覚悟で龍の中にある兄と兄に対する龍の怒りとを消そうとしたんだ。で、結果でいうとそれは成功した。龍は術者を飲み込み、術者の導きで封印されたんだよ」
めでたし、めでたし。瑞輝は黙って伊藤を見た。そうならないいだんろうな。
「で、君だ」伊藤はまた嬉しそうに瑞輝を見た。「術者と龍が融合して封印されたあと、初めて龍気を覚醒させたのが君。いや、今はまだ二人だから、君たち。おめでとう」
うれしくない。瑞輝は目を伏せ、自分の右腕を見た。いまいましい痣が見える。
「長いこと、待ってたんだよ。その気配のある人は今までにも出たらしいんだけどね、君みたいに覚醒しなかった。龍気が体を蝕んで、だいたいは小さいうちに死んじゃうんだよ。君の弟君を見てればわかるよ。弟君は君とは違って、龍気に耐えられない体だから、時間がたつにつれ、龍気に蝕まれる。少し耐性を持ってたのが災いしたね。もっと赤ん坊のうちなら苦しみも少なかったろうにね」
瑞輝は小さく眉を寄せた。それに対して俺にどう返事をしろというのだ。
「入間さんってのは、術者である弟に協力した人の血筋みたいだよ。ハッキリ記録があるわけじゃないけど、そんな感じだろうって言われてる。彼は何度か龍気を持った赤ん坊を弔ってる。君のことだって、当初はその予定だったんじゃないかな。予定が崩れちゃったみたいだけどね。入間さんはこの業界の陰のドンだったんだよ。ここまで、だいたいわかった?」
「大筋は」そう答えて瑞輝はため息をついた。
「時間をあげたらわかるってもんでもないからね。今の話で納得できる部分もあったわけだろう?」
瑞輝は少し考え、それから顔をあげて伊藤を見た。「質問をしてもいいですか」
「一つだけ許す」
瑞輝は眉間にしわを寄せた。一つって。あんなわけのわかんない話をして、たった一つしかできないのか。
「俺が弟を消すとかいう話にはつながるんですか?」
そう言うと、伊藤はニヤリと笑った。「つながるよ。君、数学は得意? あるいは化学とか」
瑞輝は首をひねった。「得意…ではないです」
「そうだよね、君はどの教科も得意じゃないよね」伊藤は笑った。
知ってたら聞くな。瑞輝はムスッとした。
「四百年前、兄と弟と龍が合体したわけだよ。それが何かのきっかけで君たち二人に入ったわけ。等分で入ったらまた話は違ったかもしれないんだけど、君に七、弟に三ぐらいが入ってるみたいなんだよね。でも器的には、君が九、弟が一だと思われる。算数はできる?」
「できます。数字が間違ってなければ、俺が二余ってて、弟が二オーバーしてる」
「君、失礼だね、数字は間違ってないよ。君の計算も間違ってないけど。っていうかこれ間違えたら人生やり直しだよね」
うるせぇな。瑞輝はもらった紙を丁寧に畳んだ。が、それを伊藤に回収される。
「これは他の人に見せられないから回収するね。余った龍気はどうなると思う? 君、国語はできる? 今までの話から推測してごらん」
余った龍気…。瑞輝はフロントガラスを睨んだ。溢れて消える? 俺が余裕があるんだから、もらってやればいいんじゃねぇ? それか…弟が器をデカくすりゃいいんじゃねぇの?
伊藤はじっと瑞輝を見た。本当に考えてるのかな、この子。
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