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尚子は瑞輝に目をやった。左手に包帯を巻いている。自分が昨日やったことを思い出す。
「何度も言いますけど、万が一にも悠斗君が助かる道があるのは、瑞輝にやらせる場合だけですからね。あいつら、封印するとか言ってるけど、まともに経験もないんですよ。まぁ龍気の封印なんて百年に一度だから、誰も経験ないんですけどね。確実に経験があるとしたら、あなたの血族ですから。そんで今、覚醒してるの瑞輝と悠斗君だけでしょ。この二人だけなんですよ、ハッキリ申しまして」
伊藤は尚子に強く説く。
「だから瑞輝を責めるのはやめてください」
伊藤が言うのを聞いて、瑞輝は耳を疑った。何を企んでるんだ、このオッサン。
「遅れを取っちゃったな」伊藤は立ち上がってどこかに電話をかける。声が遠ざかり、廊下を行くのがわかる。
瑞輝はカウンターの上にある家族写真を見た。どこかに旅行したときのものらしい。南国の木が後ろに見えて、リゾート気分満載だ。後ろに海も見える。ハワイかな。
いいなぁ。瑞輝は立ち上がって、その写真をじっと見た。横に置いてある貝殻の置物も南国風だ。
やっぱ、俺、こっちに引き取られたかったな。瑞輝はため息をついた。
「悠斗を…」
尚子の声がして、瑞輝は振り返った。
「悠斗を助けてあげて」尚子は絞り出すように言う。
今度はリビングの亀模様のカーペットの上で泣き出す尚子を瑞輝はじっと見た。詩織が母にギュッと抱きつく。廊下からの光でほとんど彼女たちはシルエットになっている。
「そのつもりです」瑞輝は答えて、何か他に彼女の力になるようなことを言おうと考えた。でも思いつかなくて黙ったままだった。だから俺はダメなんだよ。
「瑞輝!」と伊藤が呼ぶ。
泣いている彼女たちを置いていくのは忍びなかったが、たぶん今は急いだ方がいい。
「失礼します」瑞輝は頭を下げ、リビングを出た。
「瑞輝、行くぞ。ヘリを用意した」伊藤が玄関の方から言った。
「へ」瑞輝は目を丸くした。「ヘリ?」
「急げ。この先で中森氏の車が事故ってた」伊藤が車に戻りながら言う。
「事故?」
「大丈夫だ。エアバッグが守ってくれてる。君は悠斗君を追う」
瑞輝はうなずいた。
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