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「もしもーし」伊藤は星を見上げ、息をつく。
「こんばんは」冷静な声がした。
「はいはい、今ちょっと取り込み中で。瑞輝君は席を外してます」
「起きたら電話するようにと伝言したはずなんですが」晋太郎は静かに言った。「もう夜です」
「そうですね。くそっ」伊藤は何とか上体を起こす。あの野郎。
「どうしました」
「瑞輝君にですねっ、逆襲されまして。さっきまで従順だったのに」
ふふと晋太郎が笑った。
「笑い事じゃないですよ、お兄さん。瑞輝君、日本も世界もどうでもいいって言ってましたよっ」
晋太郎は笑い続ける。
「説得してくださいよ。グローバル経済とか、経済格差とか、世界恐慌とかですね、解説してる暇はないんですよ。自分が政財界に影響を与える信仰対象だってこと、自覚してほしいんですよ」
「自覚はしてると思いますよ」晋太郎は言った。
「してたら、こんなことは」
「半分ではわかってて、半分ではまだ子どもなんです。でもちゃんと必要な時にはしゃんとしますから大丈夫です」
「しゃんとしますか?」伊藤は完全に疑いの声で聞く。「いざとなったら泣いちゃったりしますよ、彼」
「泣いてもちゃんとします」
「こうなったら、してもらわないといけないんですけどね」伊藤は地面に唾を吐いた。血が混じっている。くそ、あのガキ、許さないぞ。
「龍清会に聞いてですね、今、そちらに向かうところなんですよ。間に合うかどうかわかりませんが」
「ええっ? 今どこです?」
ふふと晋太郎は笑った。
「それは言えません」
伊藤はムスッとした。この兄弟、嫌いだ。
立ち上がろうとするが、足が動かない。あの野郎、変な力を使いやがって。まだ立てねぇじゃないか。
「バカ野郎!」伊藤は空に向かって怒鳴った。
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