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瑞輝は六人の男を始末した瑞輝は、走って悠斗と笹尾の方へ近づいた。
「やめろぉっ」と叫んで手を伸ばしたものの、外側の結界に跳ね返された。自分でも何があったかわからない。硬い空気の壁があるみたいだ。なんでだ。わからない。何度かぶつかっているうちに、さっき倒した警護要員がうめきつつ復活する。
瑞輝は肩で息をした。そりゃ俺は化け物みたいに回復早いけど、それは龍の力に頼ってんだよね。それが使えないとなると、胸の傷は開くわ、左手も血だらけだわ、貧血でボウッとするわ、足はもつれるわで大変なわけだよ。手加減しろって言うなよな。
瑞輝はさっき奪い取った棒を握り、襲いかかって来る男を斬る。大丈夫だ。殺さないようにはしてる。スネを思いっきり殴るだけだ。足の骨は折れるだろうが死にはしない。クソ坊主は怒るだろうが、公正さを求めている場合じゃない。
瑞輝はそう思って、伊藤とのことを思い出した。ここにきてフェアであることを求めた自分を思い出す。
伊藤さんが正しいのかもしれない。結界一つ破れないくせに、何が助けるだ。
俺が間違ってたのか。
「悠斗!」瑞輝は警護要員を歩行不能にすると、棒を捨て、結界の前に手を置いた。奥で悠斗が笹尾に血を抜かれているのがわかる。
瑞輝は目を閉じた。結界を破る方法なんて教えてもらったか? じいちゃん、こういうときはどうすればいいんだっけ。中から許可があればいい。あるいは橋がつながればいい。
橋はない。許可をくれ。瑞輝は悠斗を見つめたが、何重にも張られた結界の向こうに声が届かない。
「保険に持って行けと言っただろ」
振り返ると、刀を杖のようについて歩いて来る伊藤が見えた。
「ほれ、君なら空間も斬れるかもしれない」
瑞輝は伊藤が差し出した刀を見た。伊藤は鞘を持っている。いつでも抜けとでも言うように。
「ありがとうございます」
瑞輝は刀を掴み、それを抜いた。その途端に動きを思い出す。目を閉じ、精神統一をする。これが昔から苦手だった。雑念を追い払えたことがない。
「ホント、君はバカだな。結界が強くて入れないなら、多少の龍気を使っても大丈夫だ。やってしまえ」
伊藤が後ろから言って、瑞輝は目を開いた。そうか。
でも多少って、どんくらいなんだよっ。
と、刀を振り下ろすと、バシィッと雷が落ちたような音がした。
笹尾も神官たちも顔をこわばらせた。何だこいつは。
伊藤はその場に座り込みながら、ニヤリと笑った。黄龍ちゃんだよ、皆様方。とくとご覧あれ。
瑞輝の金色の髪が風に吹かれて、たてがみのようになびく。振り上げられた刀は月光を浴びて白く光る。キレイだと伊藤は思った。まだ未熟だが、その背後にある底知れない力を秘めた今の姿も美しい。精神的な弱さも、龍気がカバーしてくれる。
二つ目の結界が斬り破られ、それを張っていた神官が揃って火花に当たったように跳ね飛ばされた。結界を破るというのは、ほとんど呪詛返しと同じだ。結界を張った本人が、その破られた代償を受ける。
笹尾は瑞輝を見た。最後の結界は笹尾が張った。力比べをするまでもなく、向こうが強いのはわかっている。それでもハイどうぞと獲物を渡すわけにはいかないのだった。
瑞輝はほとんど現実感覚を失っていた。また溺れる手前みたいに体が自由に動かなくなっていく。その代わりに自分の意図しない方へと体が動く。知っているのは脳ではなく体のようだ。
瑞輝は最後の結界に向かって刀を振り下ろし、それが破れると同時に結界を張った笹尾が「ぎゃぁ」と倒れるのを見た。
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