24人が本棚に入れています
本棚に追加
瑞輝は血が戻って来るのを感じていた。拒んでも拒んでも、それは流れて来る。
そうじゃないんだ。俺はこんなことをしたかったんじゃない。違うんだ。
瑞輝が空を見上げたまま泣いているのを見て、伊藤は息をついた。
「言っただろ、悠斗には無理なんだよ、これで良かった」
瑞輝は伊藤に腕を引っ張られて、体を起こした。目を閉じたままの悠斗が見えると、どうしようもなくて嗚咽を漏らす。
「その子をどうする」
笹尾が伊藤に言った。伊藤はウジウジしている瑞輝を蹴っ飛ばしてやろうかと思ったが、それをやめて神官たちの方を見た。
「どうって?」
「一つに集めたままは危険すぎる」笹尾は言うまでもないという顔で睨む。
「だから、どうしろと? 今の見たでしょ。一部は稲妻を伝って天に散りましたよねぇ。それからもう一部は煙になって斬られて散りましたよねぇ。これが彼の力です。僕らに何ができるって言うんです?」
伊藤は肩をすくめた。
「しかし…前例が」笹尾は伊藤を睨んだ。
「前例」伊藤はケッと口で言ってため息をついた。「クソ食らえだ、そんなもん」
「何っ」笹尾は顔を真っ赤にした。
「目に見えるものしか信じないってのもバカだけど、目に見えてるものも信じないってのはクソバカだと思いますね。偉い笹尾先生はそうじゃないとは信じてますけどね」
笹尾はムウとうなる。
「報告書はちゃんと書きますよ。笹尾さんの仕事は、あっちの暴力集団を片付けることと、悠斗君のことを丸くおさめることだけです。瑞輝君の件はこっちでやりますから。よろしくお願いします」
伊藤はぺこりと笹尾に頭を下げた。
「ほれ、いつまでメソメソしてる、立て」
伊藤は瑞輝の脇腹を軽く蹴った。それでも瑞輝が立たないので、腕を掴み、引き上げる。しかし、刀を片手に持っていては立たせられない。
「立てっつーの」伊藤は瑞輝に怒鳴った。
それでも瑞輝が動かないので、ため息をつく。「おーい、桂木ぃ」運転手を呼ぶ。後ろに控えていた部下が忍者のように影から出て来た。
「それ、持って来て」伊藤は瑞輝を顎で示し、刀を持って歩き出した。あいつはバカじゃねぇのか。こんな重い刀をひょいひょい振り回しやがって。自分の手を切るわ、稲妻呼ぶわ。人間じゃねぇな。
伊藤は瑞輝が投げて倒した警護要員を横目に、本当に瑞輝が敵じゃなくて良かったと思った。
最初のコメントを投稿しよう!