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■ 消化 ■
よくやったと伊藤は何度も褒めてくれた。が、瑞輝は当然嬉しくもなければ楽しくもなかった。誇らしくもなく、達成感もない。苦しいだけだ。
伊藤は個人病院を手配してくれていた。高台の上にある清潔で高級ホテルみたいな病院だった。瑞輝は運ばれて眠り、目が覚めたときに横で晋太郎が本を読んでいたので驚いた。ここ数日のことは夢だったんじゃないかと半ば期待した。が、それは自分の傷を見れば明らかだった。左腕を切り落としたのは幻だったみたいだが、同じ場所に包帯があった。骨にはヒビが入っていたらしい。それに、まだ自分の中に煙に巻かれたときの感覚が残っていた。悠斗の持っていたはずの記憶がフラッシュバックする。
晋太郎は瑞輝を見ると、本を置いてカーテンを開いた。澄んだ青空と遠くの山が見えた。上の方は雪化粧でうっすらと雲がかかっている。
「気分はどうだ」晋太郎が言った。
瑞輝は答えず目を閉じた。
「瑞輝、逃げ込むのはやめてくれ。もう充分時間は過ぎただろう。辛いのはわかるが、また待ち続けるこっちの身が保たない」
晋太郎は静かに言った。瑞輝はゆっくり目を開く。充分時間は過ぎた…?「昨日、じゃない?」
「昨日じゃないな」晋太郎は苦笑いした。「正月が過ぎて、冬休みが終わってしまった。三学期が始まって…そうだな、三日目かな」
「昨日みたいだ」瑞輝は天井を見たまま言った。
「でも二週間前だ」
瑞輝は晋太郎を見た。「家に帰りたい」
晋太郎は微笑み、うなずいた。「帰ろう」
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