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「間違ってるのはわかってる」
「何が」晋太郎はもう一度眉を寄せた。
「俺は俺のために生きてかなきゃいけない。理由を誰かのせいにするのは、間違ってる。それはわかってる。俺が誰かの代わりになれるってのも、思い上がりだって知ってる。でも今は見たくない。間違っていたい」
「ちょっと待て」晋太郎は瑞輝の肩に手を置いた。そして息をつく。ここが肝心だ。何を言うかによって、瑞輝を傷付けもすれば救いもする。晋太郎はもう一度深呼吸をした。そして自分をじっと見ている二つの目を見た。
「別に俺がどう思おうと気にするな」晋太郎は不安そうな目を見返して、小さく微笑んだ。「間違っているってのは、俺が間違ってると言うに違いないって意味だろ? おまえにとっては正解なんだろ? おまえ、俺がこっちにしろって言っても、一度だって自分を曲げたことがないくせに、今さら何を言ってるんだ。泰造と組んで、俺にどんどん嫌なことやらせて、好き勝手して生きてきたじゃないか。今さら何を言ってる」
「ご…」瑞輝は怒られているのかと思ったようだ。
「謝らなくていい。責めてるんじゃない。おまえは今まで好きにしてきただろって言ってるだけだ」晋太郎は瑞輝が逃げ出すんじゃないかと思って、ギュッと肩を押さえた。瑞輝がそれをまた怒りと勘違いしそうな目で見るので、思わず手を緩める。「今まで、おまえは間違った人生を歩いて来たと思うか? 俺の言う通りに生きていたら、間違いのない人生だったと思うか? 違うだろ。おまえはずっとそれが正しいと思って選んできて、今だって考えて選んでる。誰かのせいにしてもいい。高校受験が弟の供養になるとでも思ってるんなら、俺はそれでも構わない。振り返って、恥じるような選択さえしなければいいし、おまえはそういう奴じゃないってわかってる。人から見て、どんなに馬鹿げた選択でも、その道を進むのは本人だ。周りは気にするな。惑わされそうになったら、俺が言ってやる。泰造を見ろ。アイツよりおまえはマシだ」
瑞輝は一拍置いて、ふっと笑った。
晋太郎は内心ホッとした。破天荒な泰造に感謝する。
「泰造によると、俺は保護観察官なんだそうだ。おまえを矯正しようとしてるみたいだって。そんなつもりはなかったけど、どこかで俺の言う通りにならないもどかしさは感じてたかもしれないな。俺は俺で、今の人生が最高だと思ってるから、おまえも引き寄せたかったんだ。おまえがそのままで充分満足してるかもしれないなんて、思いもしなかった。勝手な判断だったよな」
瑞輝は首を振った。そして晋太郎を見た。「本当に最高だと思ってる?」
「思ってるよ。結婚だけはもうちょっと早くする予定だったけどさ。おまえだって予定外ってのはあるだろ? 予定通りの人生ってのもつまんないしな」
「俺が割り込んだりとか、したもんな」
「泰造だって割り込んできた。あいつの場合、本当に割り込んで来たんだ。運動会のダンスか何かで、好きな女の子と組みたいからって俺の前に。俺もその子が好きだったから、ケンカになって。バカだよな」
「そっか」瑞輝は思い返した。俺ばっかりが割り込んでると思ってたけど、俺の方にもそう言えばいっぱい入って来てるな。翼なんて完全にルール無視で家族で割り込んで来たわけだし。
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