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「なんだ…」瑞輝は息をついた。「ちょっと楽になった」
晋太郎は微笑んだ。「苦しかったのか?」
瑞輝は顔を上げて、曖昧にうなずいた。
「おまえは苦しいことも多いだろうけど、ウジウジしててもしょうがないって開き直る強さがあるからな。ずっとは停滞してないと思う。今回のことは、さすがに長引くとは思うけど、おまえなりに乗り越えると思って待ってるから、逃げてもいいし隠れてもいい、後ろ向きになってもいいから、自分を憎むのだけはやめてくれ。そんなおまえを見るのは、俺も辛い」
晋太郎はそう言ってから、ゆっくり息をついた。
「弟を食ったとか、言うな」
瑞輝はそう言われて、ギュッと膝に置いた自分の拳を握った。だってそれは事実だ。
晋太郎は瑞輝の首筋に手を置いた。引き寄せて抱きしめてやりたいと思ったが、そのままで我慢する。きっと瑞輝も照れて嫌がるだろう。
「自分を憎んでる奴に人は救えない。誰かを支えたいなら、まずは自分を赦してやれ」
今は無理だということはわかっていて、晋太郎は言った。無理は承知。瑞輝の心に届かなくてもいい。傷が癒えるには長い時間がかかるだろう。それまで言い続ければいい。
「何もできない自分を赦して、何ができるかを考えるんだ。そこからだと思わないか?」
瑞輝は少し体を後ろにそらして、晋太郎の手から逃れた。そして小さく首を振る。
「ちょっと、今は」
「そうだな」晋太郎はうなずいた。「この話はまたにしよう。とりあえず、高校進学希望、俺は大歓迎だ。勉強しろよ」
瑞輝はうなずいた。そして立ち上がる。襖を開き、閉じる前に瑞輝は手を止めた。
「ありがとう」
晋太郎は軽く手を挙げてあしらった。礼を言われることはしてない。
瑞輝は自分の部屋に戻って、晋太郎の手があった首筋に自分の手を重ねた。
じゃぁ、誰を憎めばいいんだ? 誰かを責めないと心が砕けそうだ。消えたいと思わないために、何かを憎まなければ。悲しむなんて権利は俺にはないから。
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