■ 消化 ■

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「なんだ…」瑞輝は息をついた。「ちょっと楽になった」  晋太郎は微笑んだ。「苦しかったのか?」  瑞輝は顔を上げて、曖昧にうなずいた。 「おまえは苦しいことも多いだろうけど、ウジウジしててもしょうがないって開き直る強さがあるからな。ずっとは停滞してないと思う。今回のことは、さすがに長引くとは思うけど、おまえなりに乗り越えると思って待ってるから、逃げてもいいし隠れてもいい、後ろ向きになってもいいから、自分を憎むのだけはやめてくれ。そんなおまえを見るのは、俺も辛い」  晋太郎はそう言ってから、ゆっくり息をついた。 「弟を食ったとか、言うな」  瑞輝はそう言われて、ギュッと膝に置いた自分の拳を握った。だってそれは事実だ。  晋太郎は瑞輝の首筋に手を置いた。引き寄せて抱きしめてやりたいと思ったが、そのままで我慢する。きっと瑞輝も照れて嫌がるだろう。 「自分を憎んでる奴に人は救えない。誰かを支えたいなら、まずは自分を赦してやれ」  今は無理だということはわかっていて、晋太郎は言った。無理は承知。瑞輝の心に届かなくてもいい。傷が癒えるには長い時間がかかるだろう。それまで言い続ければいい。 「何もできない自分を赦して、何ができるかを考えるんだ。そこからだと思わないか?」  瑞輝は少し体を後ろにそらして、晋太郎の手から逃れた。そして小さく首を振る。 「ちょっと、今は」 「そうだな」晋太郎はうなずいた。「この話はまたにしよう。とりあえず、高校進学希望、俺は大歓迎だ。勉強しろよ」  瑞輝はうなずいた。そして立ち上がる。襖を開き、閉じる前に瑞輝は手を止めた。 「ありがとう」  晋太郎は軽く手を挙げてあしらった。礼を言われることはしてない。  瑞輝は自分の部屋に戻って、晋太郎の手があった首筋に自分の手を重ねた。  じゃぁ、誰を憎めばいいんだ? 誰かを責めないと心が砕けそうだ。消えたいと思わないために、何かを憎まなければ。悲しむなんて権利は俺にはないから。
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