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 真ん中のテーブルに置かれたコースターも見た。来てよかった、満足度百パーセントだ。  今日の記念に何か買おうとと思った時、ガラスケースの中にもニットがあることに気づいた。見た感じはベスト。その横に、多分同じ糸で編んだのだろう。マフラーが置いてある。  だけど、なんかおかしい。ベストの首回りがガンジーセーターと同じく前後ろがない。まるでセーターの袖をつけずに前後の身頃だけを貼り合わせたような感じなのだ。  私が不審がっていることに気づいたのだろう。女性が声を掛けてきた。 「それは元々セーターとして編まれたものです。」  なるほど、袖に使う毛糸でマフラーを編んだのか。 「でも何故?途中で気が変わったのですか?」 「気が変わった、といえばそうなんですが。」  女性がゆっくりと立ち上がった。 「そのセーターはご自分で?」 「いえ、母が。私は苦手で。」 「とても素敵。」  プロから素敵と言われるとなんだか照れた。身内が褒められるのはなんだか気恥ずかしい。  彼女がガラスケースからベストとマフラーを取り出した。昔ながらの脂のきつい糸で編まれたそれはどうみてもかなり古いものに見える。 「これは私の祖父の父、曽祖父が編んだものです。」 「男の人が編み物、ですか?」 「フィッシャーマンズセーターは女性だけが編んだわけではありません。男たちもまた、船の上で魚を待つ間に編んだのです。何せ海の男たちは網を編むのはお手のものですから。」  そう言われればそうだ。漁師は手が器用だ。それは私もよく知っている。 「第二次世界大戦はご存じですか?」 「ええ、知ってます。」  教科書に載っているくらいは、だけど。 「曽祖父はガーンジー島出身でした。彼はこの港の娘に恋してここに移り住みました。曽祖父は編み物が得意でした。祖父は編み物をしている父親が大好きでいつも傍で見ていたそうです。1940年、ナチスはフランスを落とした後ガーンジー島を占領しました。非武装宣言していたにも関わらずです。曽祖父は国防義勇軍に志願しました。船の操舵が得意な漁師たちはイギリス海軍にとっても重要な存在でした。その当時祖父は六才。曾祖母のお腹には赤ちゃんがいました。今の私のように。」  彼女はそっと自分のお腹を撫でた。彼女の動きがゆったりしていたのはそれが理由だったのかと納得した。
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