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私は待っていた――――
結婚相手を白馬に乗った王子さまと例えるが、そんな凄い人じゃなくていい。
私が待っていたのは――――
キミだった。
「うわっ」
水しぶきがあがる、しりもちをついた青羽智士のズボンは水溜まりの中にあった。
「バーカ、おもちゃだよ!」
蛙を掌にのせた男子達のバカ笑いが聞こえる。智士は私の幼馴染みだ、その幼馴染みがいじめられている一部始終を黙って過ごせるほど私は大人しくなかった。
「おいっ、何やってる!」
「わっ、また来た、男女だ」
「は? るっさいわね」
私はよく虐められる智士をかばった。そのかばいかたが、男子顔負けの武闘派だった為、男女などというあだ名までつけられた。
「「うっ、うわぁっ」」
三人全員が同時に声を上げた。
こんなこともあろうかと、ランドセルに忍ばせていたリアルな蛇のおもちゃを男子達に投げつけたのだ。
その中の一人にその蛇が当たり、飛び上がるように転けた。
「お前らだって、びびってるじゃん!」
私は腰に両手を当てて、大きく笑ってやった。
気持ちがスッキリした。
「うわー、こえー」
捨て台詞のように吐くと、三人は走ってその場から逃げる、私は蛇のおもちゃを拾ってぐるぐると回しながら智士のもとへ近づく。
「ありがとう」
智士が濡れたズボンを気にしながら言った。
「虐められたらいつでも、私が守ってやるからな」
私が助ける度に智士は「ハハ」と、笑って答える。私は智士の笑顔が好きだ。そのまま一緒に歩いた。
「瑠璃ちゃん、僕のせいで変なあだ名つけられて……ごめんね」
「大丈夫だよ、これでも私ラブレターとか貰ったりするし」
智士の驚く表情をよそに私は笑顔になった。月に一度は机の中にラブレターが入っていたのは事実だった。放課後の教室で告白もされたこともあったが、それは智士には言わなかった。
智士もそれ以上は聞いてこなかった。無言のまま、並んで歩く。
ラブレター、誰に貰ったの?
その男子と付き合っているの?
本当は聞いてほしかった――――
聞いてくれると、私の気持ちはすぐに伝えられると思ったのに――――
しばらく歩くと、智士がくしゃみをした。
「寒っ」
最近急に寒くなった、更に水溜まりで濡れた智士の体が冷えたのだろう。少し震えながら歩いているのに気がついた。
私は自分の首に巻いている赤いマフラーを智士に巻いた。
「大丈夫?」
「暖かい、でも瑠璃ちゃんが……」
「私は強いから大丈夫だよ、ハハハ」
少し寒かったが、私は笑ってみせた。
「自分で作ったんだぞ」
自慢するように智士に言うと、彼は珍しそうにマフラーの端に顔を近付けた。
「瑠璃ちゃんって、凄いね」
「さ、智士のも作ってやるよ」
「本当に? やった!」
想像以上の喜びに、私の心の中は満たされた。
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