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「お母さん!」
玄関を開けるや否やランドセルを下ろして台所に駆け寄る。
「何? そんな顔して」
「智士、転校するの!?」
「うん、お父さんの仕事の関係らしいよ、寂しくなるね」
自分の表情がどうなっていたのかわからなかった。ただ、行き場の無い悲しみを、奥歯と一緒に噛み締めた。同時に頬に冷たい涙が伝った。
「お母さんはなんでそんなに平気でいられるの!」
「平気じゃないわよ、寂しいわよ」
「嘘だ! 平気だもん!」
こんなことをしている場合ではない、早くマフラーを仕上げなくては、私は編みかけのマフラーを手に取ると急いで続けた。
「瑠璃、夕飯」
やがてダイニングテーブルにハンバーグが並ぶ、
「いらないっ」
お母さんの顔も見ずに一心不乱にマフラーを編んだ、
「ダメ、食べなさい!」
「嫌だ、マフラー編むの」
「瑠璃、気持ちは分かるけど、しょうがないことなの、それに焦ってやるから編みかた間違えてるよ、ここの所」
お母さんが指差した場所が歪な形に歪んでいる。
「ほどかなきゃダメね」
「えー?」
片手で一気に毛糸をほどく。焦る気持ちに拍車がかかる、その拍子で棒針が抜けた。
「あっ、お母さん!」
「あー、これはもう初めからやり直しだね」
ぐしゃぐしゃになったマフラー、もはやその原形も留めていない。
「もうっ、お母さんのせいだ!」
「何言ってるの、自分のしたことでしょ!」
「もういい、お母さんのバカ!」
苛立ち、焦り、悲しみ、全てが混ざり合う。
編み始めはお母さんにやってもらっていたが、もう頼めそうにない、部屋で始めから一人でやり直すが、何度やっても上手くいかない、やがて疲れと空腹に負けて、リビングに戻った。
「お母さん……」
「大丈夫、まだ時間はあるわ」
「うん……」
お母さんは冷たいハンバーグをレンジで温めてくれた――――
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