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お別れまでの時間、あなたが智士君にできることを、悔いが残らないようになさい――――
お母さんに言われた。
私は何ができるか。マフラーを編む、それ以外に……学校でもできること……
「おい、お前転校するらしいじゃねえか」
「う、うん」
「逃げるのか?」
「ち、違うよ」
「じゃあ最後にこうしてやるよ」
三人組の中の一人が智士に向かい拳を上げる、反射的に智士は頭を守るように目をつむる。
だが智士の頭が打たれることはなかった。間一髪、私が現れたからだ。腕組みをしてゆっくりと近づく、やったらお前達も打つぞと、言うように、
「うわっ、逃げろっ」
智士はいつものように小さく笑い「ありがとう」と、言う。私はその大好きな笑顔にビンタをした。鈍く大きな音が休み時間の教室に響いた。これには男子三人も目を見開き驚いていた。
「えっ、瑠璃ちゃん?」
まさか私に打たれるとは思っていなかっただろう、智士は左頬を押さえながら私を見た。
「智士、やられてばかりじゃだめだ!」
「でも……」
「でもじゃない!」
私はもう一度ビンタをする、次は右頬だ。
「ちょっと瑠璃ちゃん」
「やり返せ智士!」
私は智士の頭を両手で何度も叩いた。勿論本気ではない、子供がじゃれるような感じでバシバシと叩いた。
「い、痛いよ瑠璃ちゃん」
「痛いなら、嫌なら私を叩け、智士!」
やり返さない智士。私の手に、奥歯に、全身に力が入る。
「そんなんじゃ、そんなじゃ転校しても同じだ! 私がいないんだから……もう、守ってやれないんだから……」
溢れそうな涙を堪えながら何度も叩いた。涙目を見られたくないから、顔も降りながら。
「痛いって、痛い」
「転校したらもう、私は……私はいないんだぞ!」
「そ、そんなの分かってるよ!!」
突然大声と共に私の体は後ろにふっ飛んだ。智士が両手を前に突きだしている。
「智士……」
「分かってるよー!!」
突進してくる智士、今度は逆に私が頭を叩かれる、智士は何度も「分かってる」と、繰り返しながら私を打った。
その声はフェードアウトするように小さくなり、涙混じりの声に変わる。
良かった。これで、私がいなくても――――
「先生、こっちです」
私の涙が出る前に、助けが来た。
無理矢理私と智士が引き離され、顔を覗き込まれる。
「青羽……君?」
手を出していた方が泣いていて、やられていた私が泣いていないのを不思議に思ったのだろう。女子生徒に連れて来られた先生は困惑の表情で一部始終を聞いた。
放課後の教室で、先生に怒られたが、私は嬉しかった。智士も隣で笑っていた。
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