赤いマフラーと小さな恋

5/7
前へ
/7ページ
次へ
引っ越し当日、私はやっと出来たマフラーを持って智士の家に行った。 大きな荷物は先に送っていたようで、後は小さな荷物を車に積み込んでいるところだった。 「智士っ」 「あっ、瑠璃ちゃん」 スーツケースを車にのせた智士は、私に気がつき、お父さん、お母さんに言ってから私のもとに走って来た。 「これ」 「あっ、マフラー?」 「うん、遅くなってごめん」 「やったぁ」 あれから智士は顔つきが明るくなった気がする。満面の笑顔でマフラーを頚に巻いた。 少し歪な形になってしまっていたが、それでも間に合った。 「み、見た目は悪いが、暖かいぞ」 「ありがとうっ」 「何かあれば、これを私だと思え、もう虐められるな」 「うん、瑠璃ちゃん、じゃあ僕もこれ」 智士は小さな袋をポケットから取り出して私に差し出した。 突然のプレゼントに驚いていると、智士がニカッと、笑う。 袋を開けると小さな指輪が入っていた。私はその細くて今にも折れてしまいそうな指輪を薬指にはめた。小さなジルコニアが光る。 「あ、合わないぞ……」 薬指じゃ指輪が大きすぎた。つけ直すと、親指で丁度良かった。 「綺麗……」 私は左手を、掲げて更に光を当てる。色々な角度に光を反射させる。 「ずっと友達の証拠だねっ、瑠璃ちゃん」 智士は赤いマフラーの端を掴み眩しいくらいの笑顔で言った。 「バ、バーカ、か、か彼氏彼女だよ」 「アハハッ、そっか」 勇気を振り絞って言った告白は、完全にスルーされた。智士に悪気はないことも分かっているのだが、表情が暗くなりそうなのを我慢する。今日だけはずっと笑顔でいたい。 「じゃあ、お父さんが呼んでるからそろそろ行くね」 「あっ、うん」 「マフラー大切にするから、じゃあね」 手を振り車に向かう智士、 「うん……またね」 「じゃあね」や「バイバイ」と言うと、もう二度と会えない気がして、言えなかった。 その半年後、智士は自殺した――――
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加