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引っ越し当日、私はやっと出来たマフラーを持って智士の家に行った。
大きな荷物は先に送っていたようで、後は小さな荷物を車に積み込んでいるところだった。
「智士っ」
「あっ、瑠璃ちゃん」
スーツケースを車にのせた智士は、私に気がつき、お父さん、お母さんに言ってから私のもとに走って来た。
「これ」
「あっ、マフラー?」
「うん、遅くなってごめん」
「やったぁ」
あれから智士は顔つきが明るくなった気がする。満面の笑顔でマフラーを頚に巻いた。
少し歪な形になってしまっていたが、それでも間に合った。
「み、見た目は悪いが、暖かいぞ」
「ありがとうっ」
「何かあれば、これを私だと思え、もう虐められるな」
「うん、瑠璃ちゃん、じゃあ僕もこれ」
智士は小さな袋をポケットから取り出して私に差し出した。
突然のプレゼントに驚いていると、智士がニカッと、笑う。
袋を開けると小さな指輪が入っていた。私はその細くて今にも折れてしまいそうな指輪を薬指にはめた。小さなジルコニアが光る。
「あ、合わないぞ……」
薬指じゃ指輪が大きすぎた。つけ直すと、親指で丁度良かった。
「綺麗……」
私は左手を、掲げて更に光を当てる。色々な角度に光を反射させる。
「ずっと友達の証拠だねっ、瑠璃ちゃん」
智士は赤いマフラーの端を掴み眩しいくらいの笑顔で言った。
「バ、バーカ、か、か彼氏彼女だよ」
「アハハッ、そっか」
勇気を振り絞って言った告白は、完全にスルーされた。智士に悪気はないことも分かっているのだが、表情が暗くなりそうなのを我慢する。今日だけはずっと笑顔でいたい。
「じゃあ、お父さんが呼んでるからそろそろ行くね」
「あっ、うん」
「マフラー大切にするから、じゃあね」
手を振り車に向かう智士、
「うん……またね」
「じゃあね」や「バイバイ」と言うと、もう二度と会えない気がして、言えなかった。
その半年後、智士は自殺した――――
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