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あたたかくないマフラー
でもさ、お兄ちゃんもそう思うでしょう。
お兄ちゃんは少し考えたようなふうを装ったが、口を割ると以前から用意していたようにりゅうちょうな答えが返ってきた。
思うに、普段とは違う状態に対する不安感を覚えて、災害にも似たような光景に、感情が揺さぶられるのだろう。暖冬、冷夏、空梅雨、残暑、なごり雪など。それらは毎年続くわけではないが、数年に一度は見られる現象だ。そうなんだけど、なにか決まりきった電気的に管理された世界が存在するかのような錯覚を覚え、こんなはずじゃなかったのにと、ぽつりとつぶやく普通の人間たち。私は残念ながら、普通の人間ではないようだ。
うん、わかっているけど、ぼくはそれでもお兄ちゃんのような存在がいないとだめなんだ。ぼくには、お兄ちゃんが必要なんだ。だって。
ぼくは泣きそうになりながら、悲しい声を出してそうつぶやいた。けれども、目の前にいるお兄ちゃんの表情は変わらなかった。
ねえ、これはなんだかわかるかい?
無表情のまま、お兄ちゃんは自らの巻いていたマフラーをほどき、ぼくの手もとへとほうり投げた。ぼくはそれを受け取り、その温度を確かめた。
赤い、マフラー。でも、あたたかくないマフラー。冷たい、マフラー。おどろくほど冷たい。
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