4人が本棚に入れています
本棚に追加
その頃、エアコンの効いた室内でデグニ族の族長は、博士を案内したガイドと話していた。
この家は、マフの実の輸出で儲けた金で建てていた。
日本が高値で買ってくれるおかげで、デグニ族は潤っていった。
今では島に発電所まである。
「ありがとう。あんたのおかげで一族は大儲けだ」
族長はガイドにそう言った。
「なに、お安い御用さ」
「マフの実はまだまだあるから、どんどん輸出して欲しいね」
デグニ族はマフの実なんて常食していなかった。
儀式のとき、習わしなので仕方なく口にすることはあるが、好きな人なんて誰もいない。
そもそも、マフの実は危険だから、食べ過ぎる事は固く禁じられていた。
「味蕾を強制的に働かせるから、味は感じられるようになる。だが、味蕾が疲労するにつれ、味覚は鈍感になっていく。そうすると、より多くのマフの実を摂取することになり、味蕾はさらに馬鹿になる。最終的には何の味も感じられなくなるのだ」
ガイドの言葉に族長は深く頷いた。
「いずれその事で騒ぎだすだろうな。だが、元はと言えばあの博士が実を勝手に持って行ったのが始まりだからな。責められるのはどうせ彼だ。我々は頼まれたから彼を許し、売ってあげたのだ」
「彼が責任を取るのは当然の報いというわけだな」
ガイドはそう言って笑った。
族長も頷き、げらげら笑った。
窓の外では、マフの実を大量に積んだ大きな船が日本に向けて出発していた。
最初のコメントを投稿しよう!