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39章
3体の機械兵がアンに向かって突進してきた。
機械の右腕から電撃を放ち、味方を盾にしてなお突っ込んでくる敵をピックアップブレードで斬り捨てる。
白い鎧甲冑のような破片が飛んできて、それと共に血のような赤い油が全身にかかった。
「アンッ!!!」
クリアの叫び声が聞こえると、アンの死角からインストガンによる電磁波が飛んできた。
アンはこれをなんとか避けたが、咄嗟のことだったので体勢を崩してしまう。
その機を見逃さず、ストリング兵たちが再びインストガンを構えると――。
「リトルたち、お願いッ!!!」
クリアが両手に持った刀を振り、斬撃を飛ばした。
その凄まじい斬撃は、インストガンごとストリング兵の顔面を切り裂く。
それだけでは終わらず、クリアは瞬時に移動し、後方から狙っていた兵たちに抜刀。
アンも彼女に続き、ブレードの白い光の刃を突き立てて電撃を放ち、兵たちを跡形もなく黒焦げした。
次々と遊園地のアトラクションのように噴き出す赤い血――。
その人間の血液が、電撃による熱で蒸発し、戦場に血煙があがって行く。
「はあ、はあ。クリア、もう半分は殺れたんじゃないか?」
「申し訳ないですが、数えるのはあまり得意ではありません。ですが、見た感じではまだまだのように見えますね」
アンもクリアも肩で呼吸をし始めている。
2人がいくら強いといっても、もうそろそろ体力の限界が近づいていた。
それでも機械兵もストリング兵も、深呼吸をする時間さえもくれずに、襲い掛かって来る。
アンは、次に向かって来る軍勢に向かって機械の腕を翳したが――。
「っく!? 電撃が出ない!?」
体力もそうだが、精神の疲労もすでに限界にきていたため、機械の右腕からはビリビリと小さな音を鳴らす電気が出ているだけだった。
だが、それでも彼女――アンの心は折れない。
「電撃が出せなくったって、諦めてたまるかッ!!!」
アンはこの戦場に死にに来たのではない。
仲間を守るため、犠牲になりに来たのではない。
もう自分のことを軽くは扱わない。
この場をクリアと潜り抜け、また仲間たちと笑い合うために戦いに来たのだ。
だが――。
その折れない心に体はついていかなかった。
アンもクリアも防戦一方――。
押し寄せてくる機械兵の攻撃と、飛んでくるインストガンの電磁波をなんとか受けることしかできなくなっていた。
「ダメです……もう限界……」
「しっかりしろクリア!! 私の仲間にお前を会わせたいんだ!!! こんなところで死ぬなんて許さないぞ!!!」
「……まったく、自分勝手な人ですね。では、期待に応えられるように今できることをしましょう」
クリアは、最悪の状況にも関わらず、つい笑ってしまっていた。
それは、2人とも今にも殺されそうなときでも、アンの変わらない声が聞こえていたからだった。
「聞けッ!!! 帝国の機械兵も兵士たちも!!!」
アンは残った力を振り絞り、周囲の敵を電撃で後退させた。
その威力はとても弱いものだったが、目の前にいた敵を退けさせるには十分だった。
「お前たちは何故戦うんだ!? 反帝国組織だって、帝国のやり方が問題でできた組織だぞ!!!」
アンの叫ぶような声に、その場にいたすべての者の動きが止まっていた。
彼女の言葉に全員が耳を傾けている。
「これ以上戦って何の意味がある!? 戦争なんてせずに別の解決の方法があるはずだろう!!! 世界は未だに合成種で溢れている。なのに、どうして人間同士で殺し合うんだよ!!!」
アンの言葉に、明らかに戦意喪失している者も見えた。
機械人形になってしまったオートマタでさえ、何体かはその場で両膝をついてしまっている。
アンの思いが、戦場での怒号を黙らせたのだ。
だが、その沈黙は破られる。
「いよいよ勝てないと悟って命乞いとは。無様だぞ、アン·テネシーグレッチ」
バッカスは高笑いをしながら、大声を出し続ける。
「帝国の兵たちよ!! 敵は完全に戦意を失くしたようだ!!! 今こそが勝機。一気にカタをつけてやれ!!!」
その激励によって、機械兵とストリング兵たちは再びアンとクリアへと向かって行く。
クリアは思う。
……どうしたら……どうしたらいいの……?
何か……何か打つ手は……!!!
そうだわ……ひとつだけ……まだ残っていた方法がある!!!
クリアは表情をキリっとさせ、前へと出る。
「リトルたち……これが最後のお願いです……」
「何をする気だ、クリア!?」
「私にできることをするだけですよ、アン」
ニッコリと微笑み返すクリア。
アンには彼女のやろうとしていることが理解できた。
言葉にせずとも、クリアの固い意志がアンの脳内に流れ込んでくる。
「ダメだ、クリア!!! 私の話を聞いてなかったのか!? 仲間に会わせたいんだよッ!!!」
クリアは何も答えず、ただ両手に持った刀に神経を集中させた。
そして、彼女の顔が次第に生気を失っていく。
代わりに刀のほうは、凄まじい覇気を纏いだしていた。
クリアは、自分の命を刀に吸わせているのだ。
「では……参ります!!!」
クリアが大軍に飛び込もうとした瞬間――。
「君のそういうところは好きだよ、クリア」
強烈な気を纏った2本の刀が、突然現れた人物の手によって掴まれた。
「あ、あなたは……」
刀から気が抜けていき、クリアの顔に生気が戻っていく。
そんな彼女の目の前には、前髪の長い老人――ルーザーが両手で2本の刀を握っていた。
その手からは、当然ダラダラと血が流れ始めている。
「だが、困るところでもあるな」
ルーザーの姿を見たアンとクリアは、驚きは隠せずにいた。
そして、次第に笑みを浮かべ、涙を流して始めてしまっていた。
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